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p.36 抽出テキスト

研究のサブ解析では,傾向スコア解析の結果,術前スタチン非投与群と比較して,術前スタチン投与群では心筋梗塞および脳梗塞の発生には差を認めなかったが,全死亡,心血管死亡が有意に減少した181).

対象を血管手術に限定して行われたRCT でも,手術約1ヵ月前にスタチンを開始した群ではプラセボ群と比較し,心血管イベントの有意な減少が認められた182, 183).

2015 年の血管手術患者23,536 例を対象としたメタ解析では,術前にスタチンを開始した群は開始しなかった群と比較し,心血管イベントの有意な減少が認められた184).

これらの結果からも,血管手術を受ける患者は少なくとも手術の2 週間以上(できれば1 ヵ月)前にスタチン内服を開始することが考慮される7).

1.2.2 長期服用中のスタチンの中断,継続

術前からスタチン内服を継続している患者を対象とした周術期の中断に関する複数の観察研究で,術後のスタチン中断はその後の心血管イベント発生の独立した予測因子であることが報告されている185, 186).

これらの結果をふまえると,非心臓手術の周術期には長期的に内服中のスタチンの継続が推奨される.

1.3 ACE 阻害薬,ARB(表26)

ACE 阻害薬は,高血圧症もしくはHFrEF に対し処方されている.ACE 阻害薬を内服していると麻酔導入後に昇圧薬が必要な血圧低下イベントリスクが増加するという報告がある187).一方で,ACE 阻害薬を内服中の患者は,当日の朝のみ服用を控えるだけで低血圧リスク,脳卒中などの神経系イベントリスク,心血管イベントリスクは全く内服していない患者と同等であったという大規模な後ろ向き観察研究もある188).したがって,当日の朝は内服を控えることを考慮する.ただし,非周術期ではあるが,HFrEF においてACE 阻害薬の中止により患者の予後が悪化するという報告があることから189),術前にACE 阻害薬を中止した場合は,術後速やかな内服再開が推奨される.

ARB に関するデータは少ないが,ACE 阻害薬と共通の薬理学的特性を有することを考慮すると,ARB をACE 阻害薬と同等に扱うことは妥当と考えられる.

1.4 α2 アゴニスト(表27)

内服薬のクロニジンは降圧薬として使用される. POISE-2 試験は23 ヵ国,非心臓手術患者10,010 例を対象としたRCT であり,クロニジン群ではプラセボ群に比べ,30 日時点の全死亡と心筋梗塞を減少させなかった(ハザード比[HR]1.08, 95%CI 0.93-1.26).その一方,クロニジン群で臨床的に重大な低血圧(HR 1.3, 95% CI 1.24-1.4)と非致死性心停止(HR 3.2, 95% CI 1.17- 8.76)の発生が有意に高率であった190).

これらの結果から,非心臓手術の周術期にα2 アゴニストの投与開始は原則推奨されない.ただし,α2 アゴニストを長期間内服継続している場合は,突然の休薬による高血圧,頭痛,振戦などの反跳症状を引き起こすことがあるため注意が必要である191).

1.5 カルシウム拮抗薬

Ca 拮抗薬は心筋酸素需要・供給のバランスを安定化させるため,理論的には周術期のリスク低減には有効であると考えられるが,実際は下記のとおり,非心臓手術の周術

表27 周術期におけるα2 アゴニストに関する推奨とエビ

デンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

非心臓手術の術前にα2 アゴニストの投与開始は推奨されないIII No benefit B

表25 周術期のスタチン使用に関する推奨とエビデンスレ

ベル

推奨クラスエビデンス

レベル

血管手術の少なくとも2 週間以上(できれば1 ヵ月)前にスタチン開始を考慮するIIa B非心臓手術の周術期に長期的に内服中のスタチンは継続するI C表26 周術期におけるACE 阻害薬,ARB に関する推奨と

エビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

長期服用中のACE 阻害薬,ARB を手術当日は休薬することを考慮してもよいIIb C HFrEF の維持治療として服用中のACE阻害薬,ARB を術前に中止した際は,術後,なるべく早期に再開するI C ACE: アンジオテンシン変換酵素,ARB: アンジオテンシンII 受容体拮抗薬,HFrEF: 左室駆出率の低下した心不全