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p.35 抽出テキスト

第3章 薬物治療

1 抗凝固療法以外

1.1 β遮断薬(表24)

周術期は手術侵襲や血圧低下などの影響で心筋虚血が誘発されやすい.β遮断薬は心保護作用や心室性不整脈の抑制作用を有している.しかし,非心臓手術の周術期におけるβ遮断薬についてはランダム化比較試験(RCT)を含めたさまざまな大規模臨床試験において,その結果は必ずしも一貫していない.

1.1.1 術前の投与開始

2008 年に多施設RCT であるPOISE(PeriOperative ISchemic Evaluation)試験が報告された169).麻酔導入2 ~ 4 時間前にメトプロロールを経口投与すると,プラセボと比較して30 日後の心筋梗塞発症は減少したものの,死亡と脳梗塞に関しては有意な増加を認めた.事後解析で低血圧が死亡と脳梗塞の増加の独立した因子と結論づけられている.

2008 年の12,306 例170),2014 年の10,785 例を対象171)としたメタ解析では,術前のβ遮断薬導入は心筋梗塞を減少させるが,死亡,脳梗塞,低血圧そして徐脈は増加させるという結果であった.2019 年の14,967 例を対象としたメタ解析では,術前のβ遮断薬導入は心筋梗塞と心房細動/ 粗動を減少させる一方,死亡,低血圧と徐脈を増加さ

せることが報告された172).

しかし,これらのメタ解析は 8351 例を対象としたPOISE 試験169)の結果を含んでおり,結果の解釈には注意を要する.POISE 試験はメトプロロール投与量が高用量(100 mg から投与開始し,24 時間で最大400 mg まで投与)であったことや,投与時期が手術直前であり薬剤量の調整が行われなかったことなどが問題点として指摘されている.したがって,虚血性心疾患,心房細動/ 粗動,左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)に対して非心臓手術の術前にβ遮断薬の開始を考慮した場合,低血圧と徐脈を避けるように導入から用量調整までを注意深く行うことが重要である.

術前24 時間以内に投与が開始された研究のメタ解析では,死亡リスク増加が示された171, 173).これらをふまえると,手術の24 時間以内にβ遮断薬の投与を開始することは推奨されない.

1.1.2 長期服用中のβ遮断薬の中止,継続

長期間にわたりβ遮断薬を内服中の患者で,非心臓手術の周術期にβ遮断薬の内服を継続するか否かに関しては数編の観察研究が報告されている174-179).非心臓手術患者12,105 例を対象とした大規模観察研究では,傾向スコア解析の結果,周術期のβ遮断薬の中断は30 日死亡率(オッズ比[OR]3.93, 95% 信頼区間[CI]2.57-6.01)と1 年死亡率(OR 1.96, 95%CI 1.49-2.58)の増加と関連していた175).

周術期の忍容性に問題がなければ,非心臓手術の周術期におけるβ遮断薬は継続したほうがよいと考えられる.

1.2 スタチン(表25)

スタチンは,虚血性心疾患の一次予防と二次予防に有用な薬剤であることが多くの臨床試験で示されている180).

1.2.1 術前の開始

2016年の多施設前向き観察研究であるVISION(Vascular events In non-cardiac Surgery patIents cOhort evaluatioN)

表24 周術期におけるβ遮断薬に関する推奨とエビデンス

レベル

推奨クラスエビデンス

レベル

非心臓手術の24 時間以内にβ遮断薬の投与を開始すべきではないIII Harm A非心臓手術の周術期に長期的服用中のβ遮断薬は継続するI B