p.29 抽出テキスト
6.3 ACS NSQIP Surgical Risk Calculator 119) 同じくACS NSQIP のデータベースをもとに作成されたスコアリングシステムである.こちらも専用のカリキュレーターが必要である(www.riskcalculator.facs.org).手術名,年齢,身体機能評価等21 項目を入力することで,周術期心合併症,死亡など8 種類の合併症を予測できる.急性心筋梗塞の診断はトロポニンベースである119).妥当性が検証されているが97, 119-133).ほとんどが後ろ向きの単施設研究の範疇にとどまる.わが国での妥当性の検討がなされていない点に注意が必要である. 6.4 Cardiovascular Risk Index(CVRI) 134) 2019 年に発表された新しいスコアリングシステムである.175 歳以上,2心疾患の既往,3狭心痛・呼吸困難の症状,4血液ヘモグロビン値12 mg/dL 未満,5血管手術,6緊急手術の6 項目のうち,満たしている項目数で評価する.予測するイベントは術後30 日以内の死亡,心筋梗塞,脳卒中である.0 ~1 項目であれば,イベント発生率は0 ~1.6% と低リスクとなる.2 ~3 項目で中等度リスク,4 項目以上で高リスクとなる.現時点で追跡研究は報告されていない. 6.5 特殊な状況における スコアリングシステム 6.5.1 高齢者:Geriatric-Sensitive Perioperative Cardiac Risk Index (GSCRI) 135) 65 歳以上の高齢患者のためにACS NSQIP データベースをもとに作成されたスコアリングシステムである.予測するイベントは術後30 日の心筋梗塞,心停止である.専用のカリキュレーターが必要となる.RCRI,ACS NSQIP MICA risk prediction rule よりも精度が高く予想できたと報告されているが,現時点で追跡研究は報告されていない. 6.5.2 血管手術:Vascular Quality Initiative Cardiac Risk Index (VQI CRI) 115) RCRI のメタ解析では,高リスク手術である血管手術に関しては予測精度が低いことが示されている95).米国,カナダのVascular Quality Initiative レジストリーを用いて開発されたのがVQI CRI である.予測項目は院内術後急性心筋梗塞である.手術の種類ごとで計算式が異なり, 専用のカリキュレーターを用いる.追跡研究で従来のスコアリングシステムよりも精度が高かったと報告されている136, 137). 6.6 リスクスコアの使用に関する推奨 2017 年に発表されたカナダ心臓血管学会診療ガイドライン14) では,システマティック・レビューを行ったうえで,周術期リスク評価にはRCRI を使用することが推奨された. ACS NSQIP MICA risk-prediction rule,ACS NSQIP Surgical Risk Calculator の追跡研究はRCRI に比較して少ないこと,また,日本の日常臨床における使用の簡便性から,本診療ガイドラインでも,専用カリキュレーターを必要としないRCRI を使用するのが妥当と考え推奨する. 6.7 低リスク定義のカットオフポイント ACC/AHA 周術期診療ガイドライン2014 72) では,予想リスク値1% 未満を「低リスク」と定義した.しかし,最近のデータの検討では,RCRI 0 項目でも,イベント発生率は非血管手術で0.91%(95%CI 0.70-1.2%)であり, 95%CI を考慮すると1% を超えている(表17).これを血管手術に限定することで3.2%(95%CI 2.7-3.7%)にまで上昇する(表17).RCRI のオリジナル研究94) の心筋梗塞の診断はクレアチニンキナーゼ(CK)を用いて行われていた.それに比較し,近年の臨床研究では,術後の急性心筋梗塞の発症率が上昇しているが138),それは心筋梗塞の診断に,より感度の高い心筋トロポニンが使用されることが多くなった影響と考えられており14),それに伴い低リスクの定義も見直す必要がある. 表17 は,心筋トロポニンを使用した研究のみから得られた,全非心臓手術,血管手術別のRCRI の項目数ごとの周術期主要心血管イベント発生率である.全非心臓手術は一部に血管手術が含まれているが,大半は非血管手術である.カナダ心臓血管学会診療ガイドライン2017 では, RCRI 0 項目でリスク3.9%(2.8 ~5.4%),RCRI 1 項目で6.0%(4.9 ~7.4%)と見積もり,RCRI 1 項目以上を「上昇リスク」としている14).日本でもCK, CK-MB よりも高感度トロポニンに基づく診療が一般化されており,本診療ガイドラインでは心血管イベント予測率5% 未満を「低リスク」,5% 以上を「上昇リスク」と定義する.このカットオフをふまえると,非血管手術ではRCRI 0 ~1 項目,血管手術では0 項目が低リスクとなる.