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p.22 抽出テキスト

的に陽圧換気をするため,胸腔内圧の上昇により静脈還流量が減少し,心拍出量の減少,血圧低下を来す44).術中の循環動態を維持するための輸液は血管外に漏出し45),漏出した水分は術後数日して血管内に戻ってくる.循環血液量が過剰とならないように適切に水分管理しなければ,肺水腫や心不全を引き起こす可能性がある(第4 章5 慢性心不全を参照).

1.2.2 脊髄幹麻酔(脊髄くも膜下麻酔・硬膜外麻酔)と 血行動態

交感神経がブロックされることで末梢血管抵抗が低下するため,15 ~33% に低血圧が生じ,9 ~13% に徐脈が生じる46, 47).特に,心臓への交感神経を出している第一胸髄から第五胸髄がブロックされると徐脈になりやすい48).また,大動脈弁狭窄症を合併する患者では,脊髄くも膜下麻酔を行うと交感神経ブロックによる重篤な低血圧が生じる症例が報告されているため,十分な注意が必要である49, 50).

1.2.3 体位と血行動態

腹腔鏡手術が主流になり,手術視野を確保するなどの理由から,頭部を低くしたTrendelenburg 位や頭部を挙上した逆Trendelenburg 位などの体位をとることがあり,これらの体位は循環動態に変化を及ぼすことが考えられる. Trendelenburg 位では動脈圧,中心静脈圧(CVP),肺動脈楔入圧,全身血管抵抗値が上昇する51, 52).このような体位では血圧やCVP から見かけ上,循環血液量が維持されているようにみえても,体位を仰臥位に戻したとき,血圧やCVP が低値になることがある53).

1.3 術中心停止リスク

日本麻酔科学会では,1992 年より毎年麻酔科認定病院の麻酔科が管理した症例を対象とし「麻酔がかかっている状況下で生命危機状態となった症例」を調査している. 2016 年の約213 万例の調査では,心停止2.30 /1 万例で,そのうち30 日後死亡数は1.37/ 1 万例(約60%)であり,麻酔関連心停止数は0.15 /1 万例であった54).調査年次は異なるが,死亡の転機となった偶発症の原因は,術前合併症としては出血性ショック(26.2%),手術が原因の大量出血(16.8%),多臓器不全・敗血症(12.8%),循環器系合併症(12.0%)の順に多かった55).米国では36 万人の手術患者データから,術中心停止率は7.2/1 万例であり,多変量解析で術中輸血量が最大の危険因子であった56).緊急手術,依存的身体機能,心疾患のオッズ比はそれぞれ2.04 (95%CI 1.45-2.86),2.33(95%CI 1.69-3.22),1.48(95%CI 1.11-1.96)であった56).これらの結果からも周術期におけ

る循環器系合併症管理の重要性が示されている.

2 手術別の周術期心血管イベントリ スク

本項での手術リスクは,患者の基礎状態を含めた総合的なリスクではなく,手術の種類・差異によるリスクの違い(Surgery specific risk)を意味する.これを考えるには,以下に述べる4 つの視点が重要である.

2.1 手術分野とリスク

分野別の主要心・脳血管合併症発症率,周術期急性心筋梗塞発症率を表9 57, 58) に示す.血管外科のリスクが最も高いとされ,胸部外科・移植外科手術がそれに続いている.

2.2 術式とリスク

術式別30 日以内の心臓死や非致死的急性心筋梗塞の発生を示す.イベント率が1% 未満,1 ~5%,5% 超をそれぞれ低リスク/ 中リスク/ 高リスクと分類されている59).本

表9 分野別の非心臓手術における心・脳血管合併症発症率

主要心血管脳血管*合併症発症率57)急性心筋梗塞

発症率58)

血管外科7.7 2.0胸部外科6.5 1.5移植外科6.3 1.6脳神経外科4.6 0.5消化器外科3.8 1.0皮膚・熱傷3.8皮膚・乳がん手術0.8 頭頸部外科1.8 0.61泌尿器科1.6 0.65整形外科1.6 0.67内分泌外科0.96 0.36乳腺外科0.35婦人科0.31 0.13産科0.13 0.08

(%)

* 全死亡,急性心筋梗塞,脳梗塞(Smilowitz NR, et al. 2017

57),Smilowitz NR, et al. 2017 58)を参考に作表)