p.102 抽出テキスト
ンを促進し合併症を減らすこと,身体機能維持にある. A.5 社会保障への影響 Sasabuchi ら488)は2010 年7 月から2014 年3 月の間に日本全国で治療された大腿骨近位部骨折の診断群分類(DPC)データベースを解析し,治療費は1 人あたり166 万円,入院日数中央値は30 日と報告した.このように大腿骨近位部骨折は患者の生命や機能予後に影響を与えるだけでなく,社会保障に与える負担も大きい. B 手術のタイミングに関するエビデンス 早期の手術の死亡率や合併症発症率に対する効果に関いて,2 つのシステマティック・レビュー(SR)がある22, 23). 2017 年の英国のNICE 診療ガイドライン23)では,2011 年までの前向きコホート,後ろ向きコホート研究10 報(193,793 例)を取り上げ,SR を行い推奨を作成した. 2019 年に診療ガイドラインを更新する際に2011 年以降の論文が検索され,新たな論文はあるが,特に診療ガイドライン作成に影響があるものがないとされ,新たにSR は行われなかった.最新のSR はKlestil ら(Klestil SR)によるものである22).後ろ向き研究は除外し,1997 年1 月から2017 年5 月までに報告された前向きコホート研究28 報(31,242 例)を対象としてSR を行った.この間にはRCTはない. NICE には含まれているが,Klestil SR に含まれていないものは6 報あるが,これは後ろ向き研究であるためである.一方,Klestil SR に含まれているが,NICE に含まれていない2011 年までのものが9 報ある.そのうち2 報は患者の特徴記載がないことを理由に除外されていたので,実質7 報が含まれていないことになる. 2017 年6 月以降の論文をPubMed で,([timing of surgery] OR [early surgery])AND(hip fracture)で検索した.26 の観察研究,1 つの大規模RCT(HIP ATTACK trial) 491)があった.死亡,合併症に関しては,この2 つのSR 22, 23)と1 つのRCT(HIP ATTCK trial)をもとに解説する.疼痛に関しては,1 つの後ろ向き研究479)とHIP ATTACK trial 491)で評価されており,それをもとに解説する. B.1 手術のタイミングと死亡率(表68 22, 23, 479. 491)) B.1.1 NICE の診療ガイドランSR 23) 24 時間以内の手術,48 時間以内の手術で統計的にも臨床的にも有意に死亡率を低下させた,としている. B.1.2 Klestil SR 22) 48 時間以内に手術すると,1 年死亡リスクは20% 減少したが(リスク比[RR]0.80,95%CI 0.66-0.97),24 時間以内の手術は統計学的有意差を認めなかった(RR 0.82, 95%CI 0.67-1.01). B.1.3 HIP ATTACK trial 491) HIP ATTACK trial として,6 時間以内に手術する群と6 ~24 時間で手術する群を比較したRCT が実施された. 6 時間以内群は骨折診断後6 時間(4 ~9 時間),コントロール群では24 時間(10 ~42 時間)で手術された.90 日死亡率には有意差がなかった. この2 つのSR と1 つのRCT からは,48 時間以内の手術で死亡率が低下するが,6 時間まで短縮してもさらなる死亡率の低下はないようである. B.1.4 日本からのデータ 日本整形外科学会の調査では,手術までの平均待機期間は4.05 日484),中央値3 日(25% 四分位1 日,75% 四分位5 日) 484)である.Hagino ら492)の調査によると,3 日以上手術が遅延する理由は手術室の確保困難で,ついで合併症,麻酔科医の確保困難等を挙げている.上記SR には含まれていない日本全国のDPC データを基にしたSasabuchiら488)の後ろ向き研究では,入院2 日目までに手術を受けた早期群(全体の23%)と3 日目以降に受けた遅延群(全体の77%)で,30 日後の死亡率は早期群1.0%,遅延群0.9% であった.日本からの報告では,48 時間以内手術は早期予後を改善していない.この手術遅延の1 年死亡率への影響は不明である. B.2 手術のタイミングと疼痛(表68 22, 23, 479, 491)) 早期の高度疼痛患者の割合は,24 時間以内手術をすると24 時間以降手術に比較し減少した(図32A) 479).傾向ス コア・マッチングした2 群で5 日間の平均疼痛スコア(5 点満点:5 点が高度疼痛,1 点:痛みなし)が比較された.24時間以内の手術で疼痛が有意に改善した(2.87 点vs 2.63点,p =0.01) 479). HIP ATTACK trial 491)では,6 時間以内の手術で,6 ~ 24 時間手術に比べ,中等度以上の痛みを訴える患者の割合は,4 日目以降に有意に減少した(図32B) 491).疼痛に関しては,きわめて多くの患者に高度の疼痛があり,早期に手術するほど疼痛は改善する. B.3 手術のタイミングと身体機能(表68 22, 23, 479, 491)) B.3.1 NICE の診療ガイドラインSR 23) 48 時間以降手術延期により独立した生活ができる患者の割合は有意に減少した. B.3.2 Klesil SR 22) 早期手術は遅延手術に比べ,身体機能,歩行予後は同じか,やや改善するとしている. B.4 手術のタイミングと合併症(肺炎,尿路感染症,褥瘡,せん妄) (表68 22, 23, 479, 491)) B.4.1 NICE の診療ガイドラインSR 23) 24 時間以内に手術しても主要合併症(感染症,心臓イベ