p.90 抽出テキスト
4 治療手技 4.1 止血 救急外来では,出血部での盲目的な鉗子操作はなるべく回避し,出血部位を直接圧迫しつつ手術室へ移送して,損傷部の中枢と末梢を露出させた後に損傷部を修復するのが望ましいとの意見がある840).四肢の出血は,中枢を駆血帯833)やバルーンカテーテルでコントロールすることもできる.鋭的損傷や出血を生じたカテーテル穿刺部などは,中枢と末梢を遮断して連続ないし結節縫合により閉鎖できることが多い842, 843).血管壁の挫滅がある場合は,切除と端々吻合ないしグラフト移植を要することが多い840).外傷では,致命傷となる他臓器損傷の修復が優先される場合には,止血優先で動脈結紮も考慮される851). 4.2 血栓除去 損傷血管は内膜損傷や攣縮によって末梢に二次血栓を生じることがあり,その場合は血行再建前にバルーンカテーテルで血栓除去を行う.バルーン圧を調節しつつ愛護的に操作し,内膜損傷に注意する.逆流が得られても血栓が除去しきれたとは限らないため,繰り返し可能な限り血栓を除去し840),可能ならば術中血管造影で末梢の血流改善を確認することが望ましい. 4.3 外科的血行再建 四肢の急性動脈閉塞では,迅速な血行再建が必要である.骨折を伴っている場合には,骨折治療を先行させると術野が安定しグラフト長を決めやすいが,虚血時間が延長する.しかし,血行再建を先行させると骨折整復時にグラフトや吻合部に負荷がかかり,新たな損傷を起こすおそれがある.前者の場合,内シャントを挿入して末梢への血流を確保する方法があるが833, 840),膝窩動脈損傷では腓骨神 経麻痺の発生率や下肢の切断率が高くなるといわれ837, 840, 841),血行再建を優先するのがよいとの意見がある837).病変部が2~3 cmと短い損傷あるいは鋭的損傷では,病変部を切除しても端々吻合が可能な場合もあるが840),吻合してテンションがかかる場合にはgraft interpositionが推奨される833).鈍的損傷では,内膜損傷部を残すと閉塞することがしばしばあるので,病変部の切除,十分な血栓除去,バイパス術などで対処する839, 840).開放創では感染のおそれから,自家静脈グラフトの使用を原則とする.また, ePTFE(expanded polytetrafluoroethylene)などの感染に抵抗性の人工血管を使用せざるを得ない場合は特に,血流が豊富な軟部組織で被覆するように努める833).4~6時間の虚血が疑われる症例,特に膝窩動脈など下肢動脈例では積極的な筋膜切開が推奨される. 4.4 EVT 到達しにくい深部の出血や仮性瘤・AVFに対しては, EVTが選択肢となることも多い833, 849, 852, 853).血管損傷に対するEVTとして,その動脈の血流を温存しなければならない場合はSG留置,温存しなくても良い場合には塞栓術も適応となる.これまで末梢動脈損傷へのEVTの大規模な研究はない.末梢動脈損傷28名にSGを使用したEVTの報告では853),11%が頸動脈,25%が鎖骨下動脈, 22%が腋窩動脈,11%が腸骨動脈,32%が浅大腿動脈や膝窩動脈に損傷が見られ,動脈損傷の所見としては,活動性動脈出血が32%,仮性動脈瘤が32%,動脈閉塞が22%, AVF形成が14%だった.全例でSG留置に成功し,良好な動脈血流温存と止血が得られた.4例でSGの血栓閉塞が見られ,二期的にバイパス術が施行された.血管損傷では,感染制御と循環動態の安定化を図りつつ,虚血時間と重症度に応じて血行再建後(外科的,EVT問わず)の筋腎代謝症候群などの再灌流障害やコンパートメント症候群に注意する.乏尿・無尿,高カリウム血症には血液透析を,筋腫脹,強い疼痛,麻痺出現時には筋膜切開を行う833, 840).周術期の抗凝固療法やマンニトール投与が再灌流障害の軽減に有用であるという報告もある854, 855).