p.89 抽出テキスト
1.2 慢性血管損傷 動脈損傷部周囲の血腫が線維性被膜に被われ,その内部に動脈から連続した血流を有する腔が形成されると,仮性動脈瘤(仮性瘤)となる840).動静脈穿通創では時に動静脈瘻(arteriovenous fistula: AVF)が形成され840),受傷後遠隔期に心不全症状,四肢静脈うっ滞症状などで診断される.反復する鈍的損傷では内膜肥厚,瘤状拡張,末梢塞栓が生じることがある839, 840, 846). 1.3 医原性血管損傷 医原性損傷では外科手術やEVTによる血管損傷のほか,動脈誤穿刺による医原性損傷も増加している847).EVTによる合併症として,カテーテル,ガイドワイヤー,バルーン拡張による穿孔,解離,内膜損傷,仮性瘤,AVFなどが生じうる837, 843).穿刺手技による仮性瘤やAVFでは,多くは圧迫しにくい深部の動脈や動脈の側壁寄りに穿孔部がある.内頸静脈から中心静脈カテーテルを挿入する際,動脈誤穿刺は6.3~9.5%に発生し,またカテーテル誤挿入は0.17%に起こると報告されている848). 2 病態 出血,血腫,血流低下,ショックなどの多彩な症状を呈し,感染や多発骨折,頭部・胸腹部・骨盤部の多発外傷を伴うことが多い.救命を第一として,診断と治療は優先順位を考慮しながら迅速に行う840).多くは急性動脈閉塞の症状(疼痛[pain],脈拍消失[pulselessness],蒼白[pallor/ paleness],知覚鈍麻[paresthesia],運動麻痺[paralysis/ paresis],虚脱[prostration];“5[虚脱を除く]or 6 P”)を呈するが,拍動があっても健側より減弱しているときは血管損傷を疑う.上肢では上腕動脈が多く,側副血行路が良好で神経損傷がなければ予後はよい840, 849).下肢では浅大腿動脈が最も多い.膝関節脱臼では膝窩動脈閉塞が起こりやすく840),迅速に血行を再建しないと下肢切断リスクが高まる837, 840, 841). 3 治療方針 下肢穿通性動脈損傷のガイドライン833)と上肢穿通性動脈損傷の管理法の論文849)はエビデンスレベルBの論文に基づいているが,以下文献を添えた記述の多くはレベルCである.末梢動脈損傷はhard signとsoft signに分類されることがある.hard signは動脈拍動の消失,明らかな末梢虚血症状,活動性の出血,増大する血腫,血管雑音の聴取などを指し,soft signは出血の現病歴,骨折や脱臼部近傍の動脈の存在,脈拍減弱,末梢神経の脱落所見を指す.hard signが認められた場合はEVTを含めた速やかな侵襲的介入が求められる. 3.1 診断法 末梢動脈損傷は,骨折,脱臼,筋挫滅による疼痛や神経損傷による麻痺との鑑別を要することがある.仮性動脈瘤は拍動を伴う腫瘤や血腫として触知される.血流障害の診断では前述の6P所見が有用である.血流障害のスクリーニングにはABI測定も有用である850).画像検査としては超音波検査(US),CTA(CT angiography),血管造影などがある.外傷の既往があり健側に比べ拍動が減弱していれば,CTAが第一選択の診断法で,他の合併損傷の評価も可能である833–836). 3.2 手術適応 体幹部血管損傷は救命のため,四肢動脈損傷は救肢のために手術適応となることが多い.多発骨折や多臓器損傷の合併例では,重症度に応じて治療順序を決定する.動脈損傷による血流障害は急性循環不全をきたす.4~6時間が“ゴールデンタイム” 840)とされるので,損傷部と虚血の程度によって迅速に手術適応を決定する.上肢は虚血に強く849),下腿は損傷動脈が1本で足部循環が良好なら経過観察できることが多いが,膝窩動脈閉塞は側副血行路が期待できず切断率は高く837, 840, 841),迅速な再建を要する840).また,手術時に認めた静脈損傷を修復したほうが機能的予後は改善するとの報告がある840).カテーテル穿刺後の拍動性血腫は慎重に観察しながらの適切な圧迫で治癒させうるが,圧迫止血が不可能であった場合や,筋膜下血腫による神経麻痺や仮性瘤などがみられる場合などは,EVTによる塞栓術や外科手術適応となる.