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p.40 抽出テキスト

虚血が軽微であるとは限らない.たとえば下肢筋肉のエネルギー効率が良い患者は,歩行による虚血症状,すなわち間歇性跛行が現れにくい.神経障害のため疼痛を感じにくいこともある.また,歩行に支障をきたすほどの下肢虚血が存在しても,日常生活で歩行する機会がなければ,間歇性跛行を訴えることはない.さらに,創傷治癒に支障をきたすほどの重度の下肢虚血を呈していても,受傷さえしなければ無症候にとどまる.このように,無症候性LEADとはさまざまな段階の血管病変や虚血が混在した病態である.無症候性LEAD全体でみれば血管病変や虚血が軽微な症例が大多数を占めるが,そのなかには血管病変や虚血が極めて重症な症例が一部含まれていることに注意が必要である.

とくに,創傷治癒に支障をきたすほどの重度の下肢虚血を呈していながら無症候でいる状態,すなわち「潜在的重症下肢虚血(subclinical critical limb ischemia)」は,本来,他の無症候性LEADとは区別されなければならない.実際,こうした状態はCLTIの重要な発生母地となっており,わが国でもCLTIを発症した症例の約半数が間歇性跛行の既往を欠いていた164).とくに,自立歩行不能症例,糖尿病症例,維持透析症例では,間歇性跛行を経ず,突然CLTIを発症することがあり164),注意深い管理が重要と考えられる.

無症候性LEAD集団の中から下肢症状が悪化する症例は一定の頻度で出現しうる(「1.3 患肢の予後」を参照)が,無症候性LEADに対する「予防的」な血行再建術が将来のCLTI発症,下肢切断,機能障害等のリスクを減少させるかは証明されていない.上述のとおり無症候性LEADは血管病変や虚血が軽微な症例が大多数を占めており,全体としては下肢の予後は良好である359).観血的治療には手技関連合併症などのリスクが一定頻度伴うことを踏まえると361–364),こうした「予防的」な観血的治療を現時点で積極的に推奨することはできない.今後,無症候性LEADのなかから重症化する可能性のある患者,つまり「潜在的重症下肢虚血」を選別できる方法が開発されるべきである.

無症候性LEAD患者の下肢の予後は良好と言えるが,心血管イベント発症についてはハイリスク群であり(「1.4患者の予後」を参照),その管理目標は動脈硬化性疾患の発症予防および進行抑制と位置づけられる.したがって, LEADを有さない一般集団と同様,無症候性LEAD患者においても,禁煙指導を含め,動脈硬化のリスク管理を行うことが推奨される.ただし,無症候性LEAD患者に限定した集団でこうした介入の有効性が実際に証明されているものは少ない.明らかな心血管疾患を有しない無症候性LEAD患者において,スタチン服用がMACEと総死亡のリスク低下と有意に関連した(ハザード比0.80 vs. 0.81)こ

とが観察研究で示されており360),無症候性LEAD患者においてもスタチンの投与がMACE・総死亡リスク低下に有効な可能性はある.一方,無症候性LEAD患者に対する抗血小板薬の有用性は,現時点では証明されていない162, 365, 366).このように無症候性LEADに対する管理戦略と介入効果が十分に立証されていない現状において,無症候の集団を対象にABI等を用いてスクリーニングすることが予後改善を含めた臨床成績の向上につながるかは証明されていない367).費用対効果の観点からABIによるスクリーニングの対象をハイリスク集団に限定した方が良い可能性も指摘されている368).一方で,ハイリスク患者ではすでに心血管リスクが高いことが明らかであることから,ABIの結果を問わず,しかるべき心血管リスク管理を受けるべきだとする意見もある367).ABI検査はわが国では海外以上に広く普及しており,今後,無症候性LEADの積極的な発見に使用すべきかどうか,議論が必要である.

無症候性例から発症したCLTIの予後については,「4.5血行再建術後の予後と二次予防」を参照のこと.

4.2 間歇性跛行を呈する慢性下肢動脈閉塞

4.2.1 病態生理,診断

間歇性跛行とは,特定の筋肉の怠さや痛みのため歩行継続が不能になり,少し休むと可能になる,再現性のある状態を指す365).神経性と血行性があり鑑別を要する.血行性は,主に動脈硬化を起因とする末梢動脈狭窄・閉塞により,歩行による筋肉酸素需要増大に血流供給が不足するために生じる369).速い歩行や坂道など,通常の歩行よりも酸素需要が大きいと症状が出やすい.しかし,ABI値と自覚症状の相関は必ずしも強くなく370),跛行症状は血流供給能力だけでなく,歩行習慣・ADLにも影響される.実際,運動による閉塞部の周囲の血圧や血流量低下の増強371),血管内皮機能低下による末梢血管拡張の減少372),血管新

● 間歇性跛行を訴える患者には,鑑別診断も兼ねた

詳細な問診と身体診察を行う. ● 機能検査や画像検査の結果と,問診や身体診察の

所見から,総合的に下肢虚血の程度や間歇性跛行の機序を判断する. ● 間歇性跛行に対する血行再建の要否は,日常生活

の障害の程度を評価したうえで決定する.

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