p.32 抽出テキスト
2.4.3 血糖コントロール これまでの研究のメタ解析ではHbA1c 1%ポイントの増加が大血管症の発症を1型糖尿病患者で15%,2型糖尿病患者で18%増加させると報告されている233).血糖コントロール強化療法に関しては,心筋梗塞,下肢切断の発症リスクを低下させることが示されている234, 235)が,単独のLEADに関しては血糖コントロールによる予防効果を示すエビデンスはない.UKPDSやVADTでは厳格な血糖コントロールの有意な大血管症発症抑制効果は介入期間終了後の追跡期間になってようやく認められ236, 237),より早期からの治療介入の重要性が示唆される.また,DCCT/EDIC研究で観察されたように,高血糖以外の心血管リスク因子の少ない1型糖尿病でも血糖コントロール強化介入15年後以後に総死亡の減少が見られている238).一方,厳格な血糖コントロールは糖尿病患者の肥満を助長し239),低血糖の発症リスクを増加させる234).特に,SU薬やインスリンを用いた治療においてその傾向が強く注意を要する239). 血糖降下薬の種類により大血管症予防効果が異なる可能性がある.UKPDSでは肥満を伴う2型糖尿病患者においてメトホルミン単独治療による大血管症抑制効果が示されたが251),最近のメタ解析の結果では単独治療での大血管症抑制効果は示されていない252).DPP-4阻害薬に関してもこれまでに行われたすべての大規模試験においてプラセボに対して非劣性を示すものの大血管症の抑制を示す効果は認めていない253–256).GLP-1(glucagon-like peptide 1)受容体作動薬に関しては心血管イベントを抑制する成績240–242)が認められる一方,抑制を認めない報告もある243, 244).SGLT2(sodium glucose cotransporter 2)阻害薬に関する大規模試験では一次エンドポイントに設定された複合心血管イベント抑制に関して,二次予防研究のEMPA-REG OUTCOME 245)や二次予防を7割含むCANVAS試験246)では抑制効果を認めたものの一次予防を6割含むDECLAIR-TIME試験247)では有意な抑制効果を示さなかった.いずれの試験においてもその抑制効果は心不全による入院の抑制が顕著であり,逆にCANVAS試験のみではあるが下肢切断リスクの増加を認めており246),下肢病変の高リスク症例では注意が必要である. 2.5 喫煙 表13 LEAD の喫煙の管理の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル PAD 症例に対して受動喫煙防止を含めた禁煙指導を行う139, 257, 258). I B 多くの横断的な研究で喫煙と動脈硬化疾患との関連性が示されているが,なかでもLEADとの関連性が特に強く,あらゆるカテゴリーのLEADにおいて喫煙との関係性が示されている175).ARIC研究では動脈硬化疾患のない45~ 64歳,13,355例において,26年間の観察期間中にLEADは492例,CADは1798例,脳卒中は1106例発症した.喫煙量,喫煙歴の長さは3疾患発症の独立したリスク因子であり,喫煙による疾患発症リスク上昇,禁煙による発症リスク低下効果はLEADで最も高かったと報告している.加えて,禁煙によりLEAD発症リスクは低下するものの非喫煙者に比し発症リスクが高い状態は禁煙後も30年間持続していた259).また,受動喫煙によっても曝露量依存的にLEADの発症リスクが高まることが報告されている260–263).これら一連の報告は,LEAD発症における喫煙の関連性を強く示唆するものであり,早期禁煙の重要性を再認識させるものである. LEAD症状に対する禁煙の効果としては,下肢症状・歩行距離の改善139),LEADの進行を遅延させCLTIへの移行,下肢切断リスクを減らす効果や264),下肢動脈バイパス術グラフト不全を減らす効果などが報告されている.このように,禁煙はLEAD症例の症状,下肢の予後に大きくかかわっている.加えて,LEAD喫煙者の心血管死は非喫煙者よりも2倍高いと報告されており265),心血管疾患発症防止の観点からも禁煙が必要である257, 266). 禁煙意欲のある患者であっても,独力での長期禁煙成功率は10%以下に留まる258).その一方で,集中的禁煙治療によって禁煙成功率は30%近くにも達する.このため,医療者の介入は重要である.LEAD患者の多くは禁煙する意思をもっており,医師からの直接のアドバイスは禁煙治療への足がかりとなり,禁煙意欲のない患者であっても禁煙の動機付けとなる.実際,LEAD症例を対象とした試験において通常診療よりも禁煙外来受診者の方が禁煙率は有意に高かったとの報告がある267).したがって,可能であれば禁煙外来受診が推奨される.禁煙へのアプローチには薬物による介入と,非薬物による介入があるが,具体的には「5Aアプローチ」という5つのステップが推奨されている(表14) 268).禁煙治療