p.13 抽出テキスト
2.1.2 慢性虚血 虚血の原因は器質的な動脈病変が原因で生じることが多く,生活習慣病による動脈硬化性病変がその大半を占める.動脈病変の緩徐な進行によって発達する側副血行路の存在が急性虚血との大きな違いである.末梢組織において血流の需要と供給のバランスが崩れた際に症状が出現するが,間歇性跛行のような安静時に血流が保持されるものの運動時に虚血が生じる状態から,安静時にも虚血症状が出現する重症虚血まで症状は多岐にわたる6–8).そのバランスが崩れず無症候性で経過する症例も少なくない9). 2.2 動脈病変の成因による分類 2.2.1 器質的病変 a. 動脈硬化性疾患 PADの原因となる動脈硬化病変は,病理学的には粥状硬化(内膜病変)と中膜硬化(Mönkeberg硬化)に大別される.硬化性病変にしばしば存在する石灰化病変は,臨床治療成績を不良とする大きな要因の一つである10, 11).中膜硬化は主として糖尿病によって形成され,下腿動脈に好発するとされている12).加えて,近年膝下動脈病変における血栓形成や,足部領域の動脈病変の臨床的意義が着目され始めている13, 14).糖尿病性足潰瘍では,足部動脈病変の併存が創傷治癒不全,小切断率や大切断率の増加に寄与していることが報告されている15).動脈硬化とも関連のある末梢動脈瘤は瘤内血栓の塞栓をきたすことで,急性もしくは慢性虚血の原因となる(第3章2.1「塞栓性」を参照). b. 非動脈硬化性疾患 非動脈硬化性疾患は血管炎や発生異常を含むさまざまな病態を含んでいる. 血管炎では,バージャー病,高安動脈炎,膠原病関連血管炎などがPADの原因として挙げられる.遺残坐骨動脈は,閉塞性病変を生じ下肢虚血の原因となる場合や瘤が形成され下肢への塞栓源となることがある.線維筋性異形成(fibromuscular dysplasia)は腎動脈に生じることが多い.外的圧迫による動脈狭窄では,外膜嚢腫,膝窩動脈捕捉症候群,胸郭出口症候群が挙げられるが,これらの疾患においては,動脈硬化性疾患に比べて若年発症が多く,動脈硬化リスクファクターのない症例が多い16, 17).急性虚血の場合は,心腔内血栓や中枢側動脈病変,動脈瘤から末梢動脈への塞栓症,凝固異常症などが原因として挙げられる. 医原性動脈閉塞も重要な閉塞原因であり,各種カテーテル治療の際に動脈壁の血栓・アテロームが剥がれて塞栓症 の原因となる場合や,穿刺部の血栓症を起こす場合がある.あるいは,さまざまな診療科における手術での動脈損傷による虚血などが挙げられる18). 2.2.2 機能的病変 一般的に末梢動脈は温度などの環境刺激,血流変化,脳からの信号によって,拡張,収縮する.機能的PADはこの収縮や拡張が過度に生じることによって発症し,動脈壁構造に器質的な異常を認めないことが特徴であり,器質的PADに比べてその頻度は低い19, 20).原因として,アクソシアニン症,交感神経失調,神経障害,薬剤,肢端紅痛症, Raynaud(レイノー)現象,振動病などがある. 2.3 下肢閉塞性動脈疾患(LEAD)の 症候別分類 PADの中で最も多くかつ重要な疾患であるLEADは症状や虚血の程度により治療方針が大きく変化するため,その症候による分類は非常に重要である. 2.3.1 無症候性LEAD 生理機能検査や画像診断からは動脈の狭窄,閉塞所見があるが,自覚症状に乏しいものをいう.一般に下肢の予後は良好であるため血行再建の適応はないが,生命予後は症候性と変わらないため生活習慣の改善や動脈硬化症リスクの管理は必要である21).一方で,無症状ではあるが虚血は高度な潜在的重症下肢虚血(subclinical critical limb ischemia)が一部含まれるため注意が必要である22). 2.3.2 間歇性跛行 歩行により下肢痛が生じ,休息すれば症状が消失する一連の症状をいう.筋肉の虚血を表す下肢血流障害の重要な症状であるが,神経性疾患との鑑別診断が重要である. 2.3.3 包括的高度慢性下肢虚血 (chronic limb-threatening ischemia: CLTI) 虚血による安静時痛や下肢潰瘍,壊死が少なくとも2週間以上改善せず持続するものをいう.以前はcritical limb ischemia(CLI)と称されていたが,近年の糖尿病患者の増加等により,虚血に加えて,創の部位や大きさ,感染が下肢予後を大きく左右する要因となり,そうした疾病構造においてより,的確に下肢切断リスクを反映する概念としてCLTIが受け入れられている2, 23).