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p.113 抽出テキスト

脳虚血症状を認め,画像検査で盗血現象が証明される場合や,上肢の虚血に伴う自覚症状が強い場合には,上肢の血行再建術を考慮する1074, 1075). IIa C血行再建を考慮する場合,病変の状態と患者のリスクに応じて血管内治療,または外科的血行再建を考慮する1074, 1075). IIa C無症候性であっても,患側に血液透析に関わる動静脈瘻,患側内胸動脈を用いた冠動脈バイパスが予定,あるいはすでに作成されている場合には血行再建を考慮する1074, 1075). IIa C両側鎖骨下動脈病変の場合,正確な血圧測定を行う目的において,血行再建を考慮してもよい1074, 1075). IIb C

2.1 病態

鎖骨下動脈(多くは左側)の椎骨動脈分岐より近位部に高度狭窄または閉塞があると,逆行性に椎骨動脈から上肢へ血流が流れるsubclavian steal phenomenonをきたす.患側上肢の運動に際して,subclavian steal phenomenonによる脳底動脈循環不全の症状が生ずる病態を,鎖骨下動脈盗血症候群(subclavian steal syndrome)という.また同様の機序によって,内胸動脈を用いた冠動脈バイパス術後に,鎖骨下動脈への盗血現象が生じて内胸動脈グラフト血流の低下から心筋虚血をきたす冠状動脈-鎖骨下動脈盗血症候群の報告もみられる1074–1076).

鎖骨下動脈閉塞の原因はほとんどが動脈硬化であったが1077),近年では胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)施行に際して,左鎖骨下動脈を意図的に閉塞させたことに起因する患者もしばしばみられる1078).

2.2 症状

subclavian steal phenomenonのみでは上肢の血圧左右差が見られるが,基本的には無症候である.subclavian steal syndromeでは上肢運動時の脳虚血症状(頭痛,眼前暗黒感,めまい)と上肢虚血症状(運動時の痛み,しびれ,脱力)が特徴的である.冠状動脈からの盗血の場合には胸

痛が生ずる.

2.3 治療

上肢血圧の左右差が見られるのみであれば,血行再建の適応はなく,抗血小板薬投与などの保存的治療で経過観察とすべきである.健側での血圧測定を習慣づけるよう指導する.脳虚血症状を認め画像検査で盗血現象が証明される場合や,上肢の虚血が強い場合などの有症状の場合には,患側上肢の血行再建術の適応を考慮する.無症候性鎖骨下動脈病変であっても,患側上肢に血液透析用動静脈瘻や,患側内胸動脈を用いた冠動脈バイパスが予定,あるいはすでに造設されている場合,両側の狭窄・閉塞病変を認め,正確な血圧評価が困難である場合,各種インターベンションのためのアクセス確保が必要な場合には血行再建の適応を検討する1074, 1075).

外科的血行再建には,鎖骨下動脈transposition,総頸動脈-鎖骨下動脈バイパスや,鎖骨下部切開による腋窩–腋窩動脈バイパス1079)か,鎖骨上部切開による鎖骨下–鎖骨下動脈バイパスなどの非解剖学的バイパス術が行われることが多い.最近では,鎖骨下動脈近位部の限局性狭窄または閉塞に対するPTAやステント留置術の報告が増えている1077, 1079, 1080).血管内治療については,椎骨動脈から上肢へ血液が流れている状態であることから,脳循環に対する塞栓症のリスクは小さいとされているが,脳梗塞発症例の報告もみられ注意が必要である1081).

今日TEVARの26~40%において,意図的な左鎖骨下動脈閉鎖が行われている1082).2009年に発表されたSociety for Vascular Surgery(SVS)のガイドライン1083)においてもすでに左鎖骨下動脈閉鎖時には血行再建の併施が推奨されていたが,2021年に発表されたSVSによるTEVARガイドラインにおいても上肢虚血,脳梗塞,脊椎虚血に対する予防から血行再建併施が強く推奨された1084).このなかでは,上述の血行再建適応に加えて,腹部大動脈手術・腹部大動脈ステントグラフト留置術の既往,下行大動脈への治療長15 cm以上,内腸骨動脈閉塞例などが挙げられている1084).