p.110 抽出テキスト
動脈の機能性疾患とは,四肢主幹動脈から指趾末梢動脈に器質的な閉塞性病変を認めないが,血管攣縮や拡張のために四肢の末端でさまざまな臨床症状を生じる疾患である. 基本的には血管運動神経系の異常による血管攣縮と血管拡張により,攣縮では皮膚蒼白・チアノーゼ・冷感,拡張では発赤・灼熱感・浮腫・疼痛等が臨床症状として挙げられる.代表的な疾患として血管攣縮に分類されるRaynaud(レイノー)現象と,血管拡張に分類される肢端紅痛症,複合性局所痛痛症候群が挙げられる. 1 Raynaud現象 寒冷時に発作として動脈攣縮に起因する指趾蒼白,続いて反応性充血によるチアノーゼを認め,元に復する一連の症状を指す.寒冷曝露の機会の多い上肢に認められることが多い. 病態の本質である細動脈の攣縮の発症機序はいまだ明らかでない.当初は,血管運動中枢による異常興奮とした説と血管の寒冷刺激に対する感受性の亢進とした説が報告されてきた.近年では内皮機能自身の異常やそれに伴う血管拡張障害,血管収縮増強,さらには神経学的な血管拡張障害や血管収縮増強,遺伝的要因や各種ホルモンの関与などがその原因として挙げられ,単一の原因でRaynaud現象の発症機序を説明することはいまだ困難である. 動脈に器質的病変を認めない一次性Raynaud現象(primary Raynaud phenomenon;従来のRaynaud病)と器質的病変を来たす背景疾患を有する二次性Raynaud現象(secondary Raynaud phenomenon;従来のRaynaud症 ● 動脈の機能性疾患が疑われる患者は病態の正しい 評価・診断と治療を要するため,専門医を受診させる. ステートメント候群)との鑑別診断が必要となる.後者には膠原病に合併 する血管炎や,胸郭出口症候群などが背景疾患として挙げられる. 一次性Raynaud現象は器質的閉塞性病変を認めないため,指趾に潰瘍・壊死を来たすことは少ない.治療では,まず寒冷刺激を避け,禁煙をすることが重要でこれにより軽快することも多い1047).保存的な治療が有効でない場合には,カルシウム拮抗薬を用いる1048).十分な効果が得られない場合には,アンジオテンシンII受容体拮抗薬1049)やアンジオテンシン変換酵素阻害薬1050),選択的セロトニン受容体拮抗薬(わが国では未承認) 1051),αブロッカー1052)に 加えて抗血小板薬,プロスタグランジン製剤投与を中心とする薬物療法を行うが,改善を見ることは少ない1053).壊死に陥った場合には,内科的治療では疼痛コントロールも困難であることが多く,交感神経節ブロックないし交感神経節切除を行うことになるが長期にわたる効果にはエビデンスはない. 膠原病を背景疾患とする場合には,原疾患が活動性の場合には原疾患に対する治療を行いつつ上記内科的治療が無効な場合には交感神経節切除を考慮する.膠原病のなかで活動性のSLEを合併している症例には,原病である全身性エリテマトーデス(SLE)に対する治療としてアフェレーシスを行うことが保険適用とされており,有効性を見る症例もある.ボセンタンが強皮症関連のRaynaud現象に伴う潰瘍の新規発生を抑制するが,潰瘍治癒には寄与しないとの報告も見られ1054),わが国では認可されていない. 2 肢端紅痛症(erythromelalgia) 肢端紅痛症は,うっ血を伴った発赤した四肢と灼熱感を特徴とし,未治療の場合疼痛を来たす肢端紫藍症や壊死を生じることもある. 重症症例においても足背動脈,後脛骨動脈,橈骨動脈,尺骨動脈等の主幹動脈の開存は保たれ,良好に拍動触知する.真性多血症症例に認められるとの報告がなされてお 第15章 動脈の機能性疾患