p.92 抽出テキスト
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン よる僧帽弁形成術は,NYHA心機能分類III ~IV度の重症な心不全を有する一次性MRで,併存する条件により手術が禁忌であり妥当な生命予後が期待される患者を対象に,クラスIIb,レベルBでの推奨を示した723).2017年の“AHA/ACC Focused Update”においても同様の位置づけとなっている582).後述するCOAPT試験の結果を受けて,米国では2019年に二次性MRに対してもMitraClip ®が承認され,2020年にAHA/ACCガイドラインが更新された.ガイドラインに遵守した最適薬物療法下において心不全症状を有する(NYHA心機能分類II ~IV度),左室収縮機能障害(LVEF<50%)に伴う慢性重症二次性MRの患者において,経食道心エコー法にて適切な解剖と判明しており,LVEFが20~50%,LVESD≦70 mm,肺動脈収縮期圧≦70 mmHgである場合に,クラスIIa,レベルBとされ,初めてクラスIIaの推奨を示した723a). 一次性MRに対するMitraClip ®治療のエビデンスは比較的初期のものに限られている.おもに症候性重症患者について,MitraClip ®と弁形成および弁置換を含む従来の外科手術を比較した北米の多施設共同ランダム化比較試験であるEVEREST II試験では,一年での生存率に有意差は認められなかったものの,1年以内の僧帽弁手術施行率はMitraClip ®群で有意に高かった724).MitraClip ®は解剖学的な制約があるため,外科手術リスクが低い患者における一次性MRに対しては手術が第一選択となる.一方,手術リスクが高い患者でエコー基準を満たしていれば適応となりうる.重症一次性MRに対して次世代MitraClip ®デバイスを使用したMitraClip ®と外科的僧帽弁形成術を無作為で比較するREPAIR MR試験(NCT04198870)が現在準備段階となっており,今後のエビデンスの蓄積が期待される. 二次性MRに対する単独の僧帽弁手術の有効性については,いまだにcontroversialであり,予後を改善するデータも存在しない.実際,欧米およびわが国のガイドラインにおいても,慢性重症二次性MRに対する単独の僧帽弁手術に関してはクラスIIb,レベルBあるいはCとなっている.そのため,こうした患者に対するアンメットニーズが存在しており,MitraClip ®が期待されている.実際,欧州における実臨床では,MitraClip ®の7割程度が二次性MRに対して行われている.近年,左室機能障害に伴う二次性MRを対象として,ガイドラインを遵守した薬物療法群と薬物療法にMitraClip ®を追加した群を無作為に比較した2つの重要な試験,COAPT試験とMITRA-FR試験が報告され 4.3.5 一次性および二次性MRに対するMitraClip ®治療のエビデンスた725, 726).COAPT試験では,MitraClip ®群で2年後の心 不全再入院リスクが47%低下しただけでなく,全死亡リスクも38%低下しており,二次性MR患者に対する治療介入として初めて死亡率を有意に減少させた.一方,同時期に報告されたMITRA-FR試験では,心不全再入院および全死亡いずれのリスクにおいても,MitraClip ®の追加で減少しないという結果であった.なぜ異なった結果となったのか,さまざまな考察がなされている727, 728).MRの重症度の指標である有効逆流弁口面積がCOAPT試験で平均41 mm 2,MITRA-FR試験で平均31 mm 2 と,MITRA-FR試験のほうがより重症度の低い患者が登録されていた.一方,左室拡張末期容量係数はCOAPT試験で平均101 mL/m 2, MITRA-FR試験で平均135 mL/m 2と,MITRA-FR試験のほうがより左室拡大の進行した患者が登録されていた.また,ガイドラインを遵守した薬物療法はCOAPT試験がより厳格であったのに対し,MITRA-FR試験では不十分であったことが指摘されている.MitraClip ® 自体も, COAPT試験ではより成功率が高く合併症発生率が低かったのに対し,MITRA-FR試験では成功率・合併症率ともにCOAPT試験と比較して劣っていた. わが国で実施されたMitraClip ®の安全性・有効性を評価する多施設共同治験(AVJ-514)では,LVEFが30%以上の症候性重症一次性および二次性MRで,ハートチームで外科手術高リスクと判断された患者が対象とされた.平均年齢80歳,STSスコア10.2%で,一次性・二次性の割合はほぼ半数ずつであった.MitraClip ®による主要有害イベントおよびデバイス合併症は0%,治療後のMR≦2+で定義された急性手技成功は87%であった.これによりわが国では,LVEFが30%以上の一次性および二次性MRが治療対象となった.COAPT試験のサブ解析により, LVEFが20~30%の患者においてもMitraClip ®による心不全あるいは死亡抑制効果が確認されたことを受けて,わが国では,2020年5月よりLVEFが20%以上と適応が拡大された. a. 適応基準策定の考え方 現在も国外では介入研究が実施中であり,今後,継続的に当該基準の見直しが必要であると考える. b. 対象疾患等 慢性期(急性期を脱した状態を含む)で,至適薬物療法を行っているにもかかわらず,心不全症状を有する高度MR(MRの重症度は安静時,負荷時を問わない)患者のう 4.3.6 MitraClip ®のわが国での位置づけと現状 4.3.7 わが国におけるMitraClip ®治療の適応基準