p.86 抽出テキスト
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン は,弁尖の肥厚および石灰化,交連部の癒合,腱索・乳頭筋の肥厚・短縮および癒合,弁輪部の縮小がみられる.これらの病理変化により弁口部狭窄をきたすと同時に,左室心筋や左房筋にまで病変が波及する場合がある.動脈硬化性MSにおいては,僧帽弁輪の石灰化から始まり,弁尖方向に病変が進展することが特徴である. 典型的なリウマチ性MS症例は減少傾向にあるが,過去に僧帽弁交連切開術の既往がある再施行患者,高度な動脈硬化性病変が混在する高齢患者や透析患者が増加傾向にあり,より高リスクで複雑な病態を呈する症例の割合が増加している.一般的に,弁口面積が1.5 cm 2以下の中等度以上のMSに進行すると,左房から左室への血液流入障害を生ずるようになり,左房圧の上昇とそれに伴う労作負荷時の臨床症状が出現すると考えられる.この段階に至ると,内科的治療の効果は一時的な症候寛解にとどまり,交連切開術や弁置換術により僧帽弁口の機械的狭窄を改善することが必要になる. 弁膜の性状がPTMCに適していれば,PTMCにより外科的治療と同等の治療効果,ならびに長期予後の改善を期待することができる.PTMCは手術に比べて施術に伴う侵襲度が小さい利点がある. 経胸壁心エコー法により,僧帽弁弁口面積,僧帽弁逆流症,心機能,合併大動脈弁または三尖弁疾患,ならびに僧帽弁の詳細な性状を評価する.経食道心エコーは必ずしも必要ではないが,左房内血栓の評価を目的として施行されることがある.とくに心房細動合併例では必須である.弁膜と弁下部組織の変形ならびに石灰化の重症度が,PTMCの適応決定に大きく影響するが,より客観性のある指標としてWilkinsスコアが汎用されている(表73).Wilkinsスコアは弁膜可動性,弁下部組織変化,弁膜肥厚,石灰化と4項目について評価を行い,項目ごとに0~4点で病変重症度に応じて得点化する.総合点が上昇するに従い,弁 4.2.1 術前評価膜の変形石灰化がより高度であることを示している.同ス コアは,施術成功率,僧帽弁閉鎖不全(MR)発生のリスク,長期予後と密接に相関する指標となるが,8点以下はPTMCに適した弁膜形態と判断され,良好な長期予後を期待することができる.しかし,12点以上の症例では,合併症リスクが増大すると同時に,短期および長期治療効果が著しく低下する703). 適応決定に関わる因子として,弁口面積に基づくMS重症度,左房内圧上昇に伴う心不全症状,心エコー上の弁膜形状に基づくPTMCの至適性(Wilkinsスコア),合併MRの程度,左房内血栓の有無,肺高血圧症の重症度,患者の臨床的背景(外科的手術に対する耐容性,年齢,妊娠挙児希望)があげられる.治療に際して,左房内血栓や中等度~重症MRといった禁忌項目が除外されていることが前提となる704). 中等度から高度MSが確診されているが,変形・石灰化が強く施術に不適な弁膜形状を有する症例については,重症の心不全症候(NYHA心機能分類III ~IV度)を示しながら外科的弁膜置換術が著しく高リスクとなる症例に限定して,PTMCの適応が支持されている.これらの患者群には,脆弱な高齢患者,重篤な合併疾患や重要臓器機能低下のために全身状態が不良な患者が含まれている. 施術に適した弁膜性状を有する中等度から重症MS症例のうち,あらたな心房細動発症のみを臨床徴候としている症例に対しては,血栓塞栓症や心房細動発症の予防措置としての臨床的効果は確立していない.そのため,PTMCの積極的な施術は支持されていない705). 軽症MS(弁口面積が1.5 cm 2以上)については,MS自体の症状や血行動態に対する関与は稀薄であると考えられ,施術は勧められていない. また特殊な臨床的状況として,PTMCに適した弁膜性状を有する中等度から重症MS症例では,以下の場合にお 4.2.2 PTMCの適応(表74) 表73 Wilkins スコアによる弁膜性状の評価項目 重症度弁膜可動性弁下部組織変化弁膜の肥厚石灰化 1 わずかな制限 わずかな肥厚 ほぼ正常(4~5 mm) わずかな輝度亢進 2 弁尖の可動性不良 弁中部,基部は正常 腱索の近位2/3まで肥厚 弁中央は正常 弁辺縁は肥厚 (5~8 mm) 弁辺縁の輝度亢進 3 弁基部のみ可動性あり 腱索の遠位1/3以上まで肥 厚 弁膜全体に肥厚(5~8 mm) 弁中央部までの輝度亢進 4 ほとんど可動性なし 全腱索に肥厚,短縮, 乳頭筋まで及ぶ弁全体の強い肥厚,短縮,乳頭筋まで及ぶ弁膜の大部分で輝度亢進