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p.85 抽出テキスト

れる.目標とする拡張径よりもステップダウンした径から拡張を開始して,拡張径を徐々に増大させながら,各径で複数回の拡張を注意深く繰り返すことにより,従来の逆行性バルーン拡張に抵抗するような高度な石灰化狭窄弁に対しても,安全に十分な治療効果を得ることが可能である701). ii. 順行性PTAVの治療効果と安全性701)

イノウエ・バルーンを用いた順行性PTAVの治療効果の平均像として,術直後の弁口面積は術前値の1.8倍に改善する.従来の逆行性PTAVと比較すると,治療直後の弁口面積は20%ほど増大することが示されている.術後の経過において,可動性と弁口面積が再び減少する再狭窄の発生を避けることはできないが,初期治療効果の改善により,症例によっては治療効果が複数年にわたって持続することもある.また,症候再発症例については,経年的な弁構築の劣化は存在するものの,施術を繰り返すことにより再治療を行うことも可能である.

順行性PTAV施行に伴う合併症は,心室中隔穿刺術によるものとバルーン操作に伴うものを合わせて,急性大動脈弁逆流(AR)が1%,心タンポナーデが1.3%,大動脈解離は0.5%未満,心停止や急激な心血行動態破綻は1%未満であり,施術死亡率については0.5%未満にとどまっている. iii. 順行性PTAVの利点

順行性PTAVの利点をまとめると次のようになる. 1大動脈や下肢動脈の性状や形態に制限されることなく

施術が可能である. 2血管系合併症が少ない. 3大動脈塞栓性プラークの擦過,遊離による塞栓症リス

クが最小限である. 4血行動態不安定で,IABPの併用が容易である. 5ASにMSを合併した連合弁膜症例において,シング

ルバルーンにより一期的に連続して,PTAVと経皮経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)を施術することができる702). iv. 順行性PTAVの問題点ならびに限界

施術の過程が逆行性アプローチに較べて複雑であり,治療成績と安全性は術者の熟達度と経験に大きく依存することがあげられる.不適切なワイヤループは,心筋,僧帽弁,大動脈弁に機械的負荷をかけて,一過性に逆流量の増加を招き,血行動態の不安定化に至ることがある.そのため,術中のワイヤループの維持に習熟することが重要である.とりわけ左心内ループの左室肥大のため左室内腔が狭小している症例,左室流出路を有する肥大型心筋症,僧帽弁狭窄症の合併や,著明な僧帽弁輪石灰化を有する患者では,ループの維持とデバイス操作の難度が増すために十分に経験を積んだ術者による施術が必要になる.また高齢患者を対象とするため,解剖学上の心血管構築の偏位(下大静脈

の蛇行,伴走動脈による圧迫,心臓構築の偏位)や中隔肥厚を呈しており,心房中隔穿刺術に熟練を要する場合がある. v. 順行性PTAVの利点

逆行性アプローチは,下肢動脈病変が高度な症例では血管系合併症のリスクが大きい.また,大動脈病変が高度(大動脈壁病変,瘤状変化,蛇行屈曲などの変形)な症例においては,末梢動脈塞栓症,脳梗塞,コレステロール塞栓症などのリスクが高くなるだけではなく,カテーテル操作自体が難しくなる場合がある.これらの症例においては,順行性PTAVが有利である. vi. 順行性PTAVが不適応もしくは困難となる症例

1 心房中隔穿刺術が禁忌となる症例(下肢大腿静脈アプ

ローチが困難な症例,著しく胸腰椎が変形した症例,下大静脈フィルター留置症例,心房中隔パッチ閉鎖術後の症例). 2 止血困難な凝固能異常また血小板異常を有している症例. 3 左心系(左房,左室)すなわちデバイスの通過経路に

活動性の有意な血栓や心臓腫瘍が存在する症例.ただし,左心耳に限局した血栓については,注意深い操作により施術が可能である. 4 感染性心内膜炎,僧帽弁人工弁留置術後の症例. 5 僧帽弁狭窄症,高度僧帽弁石灰化,左室肥大にともな

う流出路もしくは心内腔狭窄例など,理想的なワイヤループの形状を作成することが困難な症例では,イノウエ・バルーンの操作が難しくなる場合があり,熟練した術者による注意深い施術が必要になる. vii. 特殊な臨床的背景を有するAS症例に対する順行性PTAV

ASが主病像である場合,Sellers 分類III度を含むそれ以下のARが併存していても,注意深い拡張形成を行うことにより,施術が可能である.多くの症例で術前後のARに有意な変化を認めることはない.高度硬化石灰化を伴う二尖弁ASに対しても,順行性PTAVにより,十分な拡張形成効果を期待することができる.また再狭窄による症候再発を繰り返す症例に対しても,PTAVを繰り返すことにより,初回と同等の治療効果を得ることが可能である.いずれの病態においても,弁置換術(外科的もしくは経カテーテル的)の適用が困難な患者に限定して,症候寛解と血行動態の安定化を目的として行われる.

僧帽弁狭窄症(MS)の成因は,リウマチ性変性,動脈硬化性変化の2種類に大別される.リウマチ性MSにおいて

4.2 僧帽弁狭窄症