p.82 抽出テキスト
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン 予想される.今後も新しいエビデンスに基づいたガイドラインの改定が適宜なされるべきである. 経皮的大動脈弁形成術(PTAV)は,狭窄弁をバルーン拡張することにより,硬化肥厚と石灰沈着が混在する病変組織に圧折線と微小粉砕骨折を形成して,弁膜の可動性と弁口面積の改善を図る治療法である696).その術式は,経動脈的に大動脈を経由して大動脈弁に到達する逆行性アプローチと,経静脈的アクセスから経心房中隔的に左心室を経て大動脈弁にデバイスを進める順行性アプローチの2種類に大別される.いずれのアプローチも,弁置換術やTAVIに先立つブリッジ治療か,もしくはそれらが不可能な患者に対する症状緩解としての役割が主体である. a. 成人ASに対するPTAVの適応 表70に成人ASに対するPTAVの適応を示す.重症ASにちなんで心原性ショックをきたしている例では,迅速に血行動態の安定化を図る必要がある.ただちに弁置換術あるいはTAVIを行うことができない場合,PTAVにより迅速に血行動態の安定化を図ることが可能である697).また,ASに加えて,そのほかの心血管系合併疾患(僧帽弁疾患,虚血性心疾患,心筋症,心房細動など)のため,症候に対するAS単独の関与や重症度の判定が困難な症例が存在する.このような状況では,PTAVによりASを軽減させて,ASが血行動態に与えてきた影響を評価することが可能である. b. 逆行性PTAV 逆行性大動脈弁バルーン形成術(retrograde PTAV)とは,大動脈側から狭窄した弁を介してデバイスを挿入する方法である. i. 手技とポイント・症例選択と術前の準備 1 心エコー図: 大動脈三尖弁を確認する.二尖弁・単尖 弁を除外し,重症度を評価する.大動脈弁逆流は軽症まではPTAVが可能とされる.弁性状の評価は経胸壁心エコー図のみならず経食道心エコー法を併用する. 2 造影心臓CT: 大動脈弁の正確な計測にはCTが適する. 石灰化の程度,大きさ,分布,弁輪形状,長短径・面積などの計測,SOV,弁下部などを評価し,使用するバルーン径を決める.あわせて上行・弓部・下行大動脈壁性状も評価する. 3 頭部MRIまたはCT: PTAVによる脳塞栓の発生はまれで はなく,術前の脳の状態ならびに頭蓋内血管を評価する. 4 患者・家族への説明と同意: PTAVは短期効果しか期 待できず,合併症もまれではなく,開心術・TAVIな 4.1.2 PTAV どへの橋渡しの意味しかないことを繰り返し説明し,それでも緊急では開心術を必要とする場合もあるとし,同意を得る.・カテーテル手技 1 前処置とアプローチ: 複数の静脈ライン確保と輸液を 行い,局所麻酔+鎮静薬で苦痛をとる.TEEによる術中評価・モニターを行う場合は,全身麻酔とする.鼠径部にて大腿動脈・大腿静脈穿刺を行い,シースを挿入する.用いる弁拡張バルーンにより動脈シースのサイズは異なり,通常8~12 Frを用いる.縫合止血器具を事前にセットして用いると止血は容易である.状態が不安定な患者が治療対象であり,対側の大腿動脈にもシースを挿入し,ピッグテールなどを大動脈に残し,左室・大動脈同時圧評価を可能とするとともに,緊急時の大動脈内バルーンポンプ・経皮的心肺補助のルートを保持しておくのがよい.長時間留置を考慮し,右頚静脈にシースを挿入し,一時ペーシングカテーテル留置に備える.ヘパリン3,000~5,000単 表70 成人AS に対するPTAV 適応の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル PTAVにより全身状態ならびに心血行動態の改善を得たのちに,待機的に弁置換術またはTAVIを予定している場合.症候性重症(弁口面積1.0 cm2未満)のAS症例に対し,PTAVを考慮してもよい. IIb C全身麻酔下での非心臓手術が予定されており,術中の血行動態の安定化ならびに耐術能の確保が必要な場合,症候性重症AS に対し,PTAVを考慮してもよい. IIb C外科的弁置換術またはTAVIの双方ともに著しくハイリスク,もしくは適応とならない症候性重症AS患者に対して,症候寛解治療が必要な場合,PTAVを考慮してもよい. IIb C形態ならびに血行動態上,重症ASの可能性が高いが,合併する心血管系疾患や多臓器疾患のため,ASの関与ならびに重症度が不確定な症例に対し,診断的治療をかねてPTAVを考慮してもよい. IIb C軽症~中等度(弁口面積1.0 cm2以上)のASに対し,心不全徴候を有する症例に対して症候寛解を目的にPTAVを行うべきではない. III Harm 症候性重症AS症例に対し,外科的弁置換術またはTAVIの実施が可能であるにもかかわらず,代替治療として症候寛解を目的にPTAVを行うべきではない. III Harm