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p.71 抽出テキスト

心臓の外科手術の際に行われる左心耳閉鎖は,技術的な変遷を経て今日に至る.近年,外科的左心耳閉鎖の安全性を支持する報告が散見される.心房細動を有する高齢患者に対し心臓外科手術の際に左心耳閉鎖を行い,術後血栓塞栓症のリスクを評価した観察研究では579),米国胸部外科学会データベースを用い,メディケアの請求データにリンクさせて,術後3年以内の血栓塞栓症による再入院(脳卒中,一過性虚血性発作,または全身塞栓症)を一次エンドポイントとして行われた.対象は心臓外科手術を受けた10,524例の患者のうち,左心耳閉鎖が施行された患者3,892例(37%)である.平均2.6年間のフォローアップで,左心耳を閉鎖した群は,左心耳を閉鎖しなかった群と比較して,血栓塞栓症による再入院率が低かった(4.2% vs. 6.2%,HR: 0.66[95%CI: 0.56- 0.79],P <0.001).全死亡は(17.3% vs. 23.9%,HR: 0.70 [95%CI: 0.64-0.77],P<0.001)で,複合エンドポイントは(20.5% vs. 28.7%,HR: 0.69[95%CI: 0.63-0.75],P<0.001)であった.この結果は,心房細動を有する高齢患者において,外科的左心耳閉鎖は術後の血栓塞栓症を減少させる可能性があることを示唆している.抗凝固療法によって層別化されたサブグループ解析では,心房細動の既往があり,外科的左心耳閉鎖を受けたため退院時に抗凝固療法が不要となった患者での血栓塞栓症発症率は,左心耳閉鎖も抗凝固療法も受けなかった群と比べて有意に低かった.

一方,プロペンシティスコアマッチングを行った解析研究では,外科手術と同時に左心耳閉鎖を行っても長期の血栓塞栓症イベント発症率に差がみられなかったという結果であった.各群は461名であり,それぞれ約半数に心房細動がみられてた.外科的左心耳閉鎖群は,術後早期の心房細動発症の独立したリスク因子になった(調整オッズ比: 3.88[95% CI: 2.89–5.20]),ただし,これらは脳卒中や死亡とは関連がなかったと報告された580).

これらのエビデンスおよびわが国における現状を鑑み,左心耳閉鎖・切除における推奨とエビデンスレベルを表62に示す.

3.2.3 外科的左心耳閉鎖・切除術 4. 後天性心疾患

4.1 成人の大動脈弁狭窄症

近年,大動脈弁狭窄症(AS)が,高齢者を中心に増加している.これらの患者では,全身状態ならびに重要臓器の予備能の低下や,種々の要因(胸部放射線治療後,心臓外科手術の既往,大動脈プラーク病変,陶磁器様石灰化大動脈)のために,外科的弁置換術が困難となる症例が多い.これらの患者に対する治療として,経カテーテル的大動脈弁植込み術(TAVI)が,重要な役割を担うようになってきた.わが国においては,2013年に“SAPIEN XT”が薬事承認されて以降急速に普及し,重要な役割を担っている.前回の「先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン」2)以降もデバイスが発展し,新しいエビデンスが発信され,海外のガイドラインが改訂されている581, 582).

これまで外科的大動脈弁置換術(SAVR)とTAVIとの適応のふりわけは,STS score,Euro SCORE,Japan SCOREなどSAVRリスクを軸にして行われてきた.しかし,2020年の日本循環器学会などの合同研究班による「弁膜症治療のガイドライン」3)では,「SAVRかTAVIかの選択は,年齢,個々の外科弁・TAVI弁の耐久性テータ,SAVR手技リスク,TAVI手技リスク,解剖学的特徴,フレイルなどを鑑み,すべてのAS患者に対しSAVR,TAVI両方の治療について十分な最新の情報に基づく正しいインフォームドコンセントがなされたうえで,個々の患者の価値観や希望も加味し,最終的には弁膜症チームの議論を経て決定されるべきである」と提唱している.

本項ではTAVI,および1990年代より行われてきた,経皮的大動脈弁バルーン形成術 (PTAV)に関して,技術的な面を中心に概説する.

a. ハートチームの役割とTAVI治療のシステム

TAVI施行にあたっては,弁膜症手術の経験が豊富な心臓血管外科医,冠動脈形成術や経皮的弁形成術の経験が豊富な循環器内科医,さらには弁膜症手術麻酔の経験が豊富な麻酔科医によって構成された弁膜症チームにて行われるべきである.経食道心エコーは,術前の評価や植込み後の人工弁の位置確認,僧帽弁および三尖弁の逆流や植込み後の人工弁

4.1.1 経カテーテル的大動脈弁植込み術 表62 左心耳閉鎖術・切除術の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

脳梗塞リスクが高いものの出血リスクも高いなど長期抗凝固療法が不適切と考えられる心房細動症例に対し,経皮的左心耳閉鎖を考慮してもよい. IIb B開心術施行の際に,外科的左心耳閉鎖・切除を考慮してもよい. IIb B