p.62 抽出テキスト
先天性心疾患,心臓大血管の構造的疾患(structural heart disease)に対するカテーテル治療のガイドライン カテーテル塞栓後の抗血小板薬や抗凝固薬の投与の適応は不明であるが,閉塞後にはそれまで高血流であった血流が減少し,拡大している冠動脈内の血流速度が低下するために血栓が生じやすくなることが指摘されている522, 523).このため,手技中からヘパリン持続投与を行う.術後はすみやかにワルファリンを導入し,PT-INR 2.0~3.0の管理を6~12ヵ月続け,冠動脈造影などで冠動脈のリモデリング,すなわち径が正常に近づいたことを確認できれば中止するという意見がある517, 524). 2.7 肺動静脈瘻(表54) 肺動静脈瘻は肺内の動静脈間に正常な肺毛細血管を経ない交通を有し,肺内右左短絡を生じる疾患である.瘤状の嚢に1本の流入,流出血管を有する単純なものが約80~ 90%を占め,叢状の塊を形成し,複数の流入,流出血管を有するものが5~10%,全肺野にわたって小さな瘻がびまん性に多発するものが5%,まれに肺動脈の枝が左心房に連絡するものがみられる525, 526).無症状のものが多いため,有病率はこれまでに考えられていたより高く2,630例中1例と報告されている527).びまん性多発性を除くと胸膜近くの肺底部に多い528).このため息切れや低酸素血症は立位になった時に出現しやすい(orthodeoxia).脳梗塞,脳膿瘍など奇異性塞栓が疑われる症例は2.5~25%といわれてきたが529),脳画像診断を行うと約50%の症例で皮質または皮質下に梗塞の所見が認められている530).奇異性塞栓は多発性で太い流入動脈を有するもの,すなわち瘻の総表面積が大きいもので多く531),流入血管径が3 mmを超えると有意に高リスクとなる530).また瘻の破裂による喀血,血胸,空気塞栓を発症する例もあり,空気塞栓も中枢神経症状の原因となり得る532).肺高血圧は,血管抵抗による高肺血 流に対する防御反応である一方で,瘻の拡大,破裂のリスクを上昇させる533). 先天性が圧倒的に多いが,胸部手術,外傷,肝硬変に伴う肝肺症候群,グレン手術やフォンタン手術後など後天性のものも知られている534, 535).70~90%は遺伝性出血性毛細血管拡張症(hereditary hemorrhagic telangiectasia: HHT)に合併する530, 536).半数近くの症例は無症状で,とくに小児期に有症状となることはまれである528).症状の出現には病変部の数より大きさのほうが関連する528). 無症状例では胸部単純X線写真で偶然発見されることが多い.動脈血酸素飽和度の低下,とくにorthodeoxiaがある場合,奇異性塞栓を発症した場合には本症を鑑別診断にあげる必要がある537).右左短絡の証明にはコントラストエコーの感度が95~100%と高く537),左房へのコントラスト流入が,右房への出現直後ではなく,4心拍以降にみられた場合には肺内シャントが示唆される538).コントラストエコーが陽性であれば造影CTを行うことで診断に至るが,画像上明らかなものが認められなかった場合は微細肺動静脈瘻を疑う537). HHTは,1鼻出血,2毛細管拡張,3内臓の動静脈瘻, 4家族歴のうち3個以上を有することで診断される難治性希少疾患である539).単発性の約40%,多発性・びまん性の約60~90%がHHTと診断される540).一方でHHTに肺動静脈奇形(PAVMs)を発症するのは15~50%といわれる541).同じ遺伝子変異でも表現型が異なり,一家系内に無症状の例から重症肺病変を有する例までが混在することがある.したがって肺動静脈瘻の患者を診察する際には診断基準について詳しく診察,問診することが重要である. HHT患者の80%に,endoglin遺伝子かアクチビン様受容体キナーゼ(activin-like receptor kinase: ALK1)遺伝子の変異が認められる539). 低酸素血症や息切れ,脳膿瘍,脳梗塞などの臨床症状,あるいは肺,胸膜への出血の既往を有する症例ではすみやかに治療を行う.無症状の場合,以前のガイドラインでは>3 mmが治療適応とされていたが,デバイスの進歩により安全にカテーテル治療が可能になったことを受け,現在ではCTで認識される大きさ(2 mm以上)の肺動静脈瘻は治療適応と考えられている539, 542).治療方法は経カテーテ 2.7.1 診断 2.7.2 HHT 2.7.3 治療適応 表54 肺動静脈瘻に対するカテーテル塞栓術に関する推奨 とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 有症状である肺動静脈瘻に対し,カテーテル塞栓術を行う. I Cカテーテル塞栓術後6ヵ月およびその後3 ~5 年ごとの造影CT によるフォローアップを行う. I C無症状だがCT で2 mm 以上の径を有する肺動静脈瘻を1 個以上もつ成人に対し,カテーテル塞栓術を考慮する. II C無症状の小児例に対し,カテーテル塞栓術は行うべきではない. III Harm C