p.105 抽出テキスト
ラフト治療において,もっとも重篤な合併症の一つに脊髄虚血(SCI)に起因する対麻痺がある.術後対麻痺は,患者のQOLや生命予後さえも急激に悪化させうる.SCI発生に関するリスク因子には,ステントグラフト留置に伴う広範囲の肋間動脈閉塞,周術期の低血圧,腹部大動脈瘤治療歴,鎖骨下動脈の閉塞,内腸骨動脈の閉塞などが報告されている889).広範囲カバーを要する症例において, SCI発生リスク軽減のため,分割手術により段階的に治療することも検討すべきである. SCI予防においては,術前にMDCTやMRIにより前脊髄動脈(ASA)およびASAへの側副血行路を同定することが重要である890).とくに鎖骨下動脈などから由来する側副血行路の重要性には注目が集まっており(図21),鎖骨下動脈の血行再建によりSCI発生リスクが軽減できることが報告されている891).また,SCIの発生リスクが高い症例では,あらかじめ脳脊髄液ドレナージ術を行い,脳脊髄圧を下げ,脊髄灌流を維持することでSCI発生リスクを軽減できる可能性がある.しかし,脳脊髄液ドレナージ術にも,手技による出血,血腫形成などの合併症もあり,それぞれの症例および施設の経験からリスク–ベネフィットを考慮し施行することが望ましい.また,術前に脳脊髄液ドレナージ術を行っていない症例で術後SCIを認めた場合,脊髄液ドレナージ術の追加を検討すべきである.また,SCI予防には周術期の血圧管理も重要であり,ステントグラフト留置直後より平均血圧を80 mmHg以上に維持すべきであるとの報告もある889). 対麻痺は,手術直後に発生する場合もあるが,術後数日を経て麻痺を生じる場合もある.術後数日は慎重に経過観察を行い(不整脈発症による血圧低下にも慎重に対応する必要あり),対麻痺を疑う症状を認めた場合,後述する脳 報告されている886).EVAR後の瘤拡大の原因の多くはタイプIIエンドリークであることが広く認識されるようになり,タイプIIエンドリークの克服は喫緊の課題である.現在のところ,タイプIIエンドリークに対する有効な予防法は確立していないが,EVER前の下腸間膜動脈(IMA)塞栓術やEVAR後のトラネキサム酸投与が有効であるとの報告もある887, 888).しかしながら,タイプIIエンドリークを完全にゼロにすることはできておらず,タイプIIエンドリークの残存に伴い瘤拡大を認める場合は,コイル塞栓術などの追加処置を検討する必要があり,最悪の場合,人工血管置換術を行うことも念頭に置く必要がある. ii. SCI(表89) 胸部大動脈瘤および胸腹部大動脈瘤に対するステントグ 表87 エンドリークの分類 タイプIステントグラフトとlanding zoneにおける接合不全に基づいたリーク.タイプIaが中枢側からのリーク,タイプIbが末梢側からのリークである.タイプII大動脈瘤から分岐する側枝からの逆流によるリークで,side branch endoleakともよばれる. タイプIIIステントグラフト-ステントグラフト間の接合部,あるいはステントグラフトのグラフト損傷などに伴うリークで,junction leakともよばれる. タイプIVステントグラフトのporosityからのリークで, porosity leakともよばれる.留置後急性期にみられても,慢性期には消失する場合もある. タイプV画像診断上,明らかなエンドリークは指摘できないにもかかわらず瘤径の拡大傾向をきたすもので, endotensionともよばれる. 表86 Chimney technique の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 緊急時のサルベージ手段として, Chimney techniqueを考慮する. IIa C 表88 エンドリークに対する追加処置の推奨とエビデンス レベル 推奨クラスエビデンス レベル エンドリーク(タイプI)に対し,根治治療を行う. I Bエンドリーク(タイプIII)に対し,根治治療を行う. I B瘤径拡大を伴うエンドリーク(タイプII)に対し,追加治療を考慮する. IIa C表89 脊髄虚血の予防・治療に関する推奨とエビデンスレ ベル 推奨クラスエビデン スレベル 広範囲カバーを要する症例に対し,分割手術を考慮する. IIa C左鎖骨下動脈の血行再建を考慮する. IIa C脊髄虚血の高リスク症例において,術前に脳脊髄液ドレナージ術を考慮する. IIa C脊髄虚血の治療として,脳脊髄液ドレナージ術を考慮する. IIa C 80 mmHg以上を目標に平均血圧を維持することを考慮する. IIa C