p.88 抽出テキスト
心エコー法は,非侵襲的に反復して実施可能で経時的な観察ができる利点を活かし,手術適応決定,手術後合併症・続発症の評価,また長期予後判定のための心機能評価という観点からも極めて重要な役割を担っている557, 558, 565, 566).先天性心疾患の外科手術前後に心エコー法を行う際には,行われた手術術式と観察すべきポイントについて依頼医と情報交換を行って実施することが肝要である. 1.4 先天性心疾患における心エコー法所見の 正常値 先天性心疾患の心機能評価を行う場合,最も問題となるのは「正常値」である.多数の正常構造心のデータから心内腔のサイズや収縮拡張機能が明らかにされている成人の正常値を,そのまま先天性心疾患の「正常値」として用いることはできない.体循環を支持している解剖学的右室と肺循環を支持している解剖学的右室では,心室にかかる負荷が異なるため,それぞれの「正常値」は異なる566-568).さらに先天性心疾患の外科手術治療例では,手術侵襲などによる修飾の影響を除外できず,加齢に伴う変化も含め,何をもって正常値と判断するかは厳密には困難である.このため,心機能異常についての判読に際しては,心不全がなく血行動態にも問題がないと思われる少しでも多くの例を「正常」と考え,それらの症例の集積から得た値をいわゆる先天性心疾患の心房・心室の「正常値」として判断せざるをえない.この点について,先天性心疾患の心機能を判読する際には十分留意する必要がある. 2 短絡(シャント)疾患の評価方法 2.1 適応 短絡性心疾患が疑われる場合は心エコー法が適応となる.右左シャントの検出には攪拌生理食塩水によるコントラストエコー法が有用である(第1章 5. コントラスト心エコー法[心腔]を参照). 2.2 判読 シャント部位の評価,シャント血流の向きと量の評価,シャントの結果としての心負荷の指標となる心腔サイズの計測,合併する肺高血圧症の有無の評価を行う.心エコー法によるシャント部位別評価法について表66に示す.肺体血流比Qp/Qsは,流出路断面積と通過血流の速度時間積分値の積から流量を計測することで推定する569).2D心エコー法による流量の推定は,流出路断面は正円形,通過血流は層流が前提であり,これらが実際には当てはまらない場合に臨床的誤差要因となる.心エコー法を用いて推定したQp/Qsは,治療法選択に際しては,参考にとどめるべき値である.シャントの存在が確認できており,容量負荷による心腔拡大があれば短絡は有意であると考える.卵円孔開存や動静脈瘻を介する右左シャントの検出,および左上大静脈遺残と部分肺静脈還流異常の鑑別には, 表66 心エコー法によるシャント部位別評価法 ASD VSD PDA シャント部描出のエコーウインドウ傍胸骨四腔像傍胸骨短軸像心窩部像右側臥位胸骨右縁像傍胸骨短軸像心尖部四腔像心尖部五腔像高位傍胸骨長軸像(ductal view) 傍胸骨短軸像胸骨上窩短軸像 シャント血流の時相全心周期全収縮期全心周期Qp計測部位右室流出路右室流出路左室流出路Qs計測部位左室流出路左室流出路右室流出路容量負荷心腔右房,右室左房,左室左房,左室 エコーで留意すべき併存疾患MR TR部分肺静脈還流異常大動脈弁右冠尖逸脱AR右室二腔心左心不全ASD:心房中隔欠損症,Qp:肺血流量,Qs:体血流量.