p.77 抽出テキスト
1 急性冠症候群(ACS) 1.1 適応 心エコー法は,非侵襲的で迅速な検査を行えることからACSの診断に有用である450).ACSが疑われる症例において,心エコー法は左室壁運動の異常を検出することによりACSの診断に寄与できる451, 452).左心室および右心室の壁運動異常が観察される部位から,責任冠動脈とその部位の推定が可能である.また,ACSによる機械的合併症である左心室壁破裂,心タンポナーデ,心室中隔穿孔,ならびに乳頭筋断裂の診断,および心室瘤の形成と左心室内血栓の診断において,心エコー法は必須である453-462).さらに,急性心筋梗塞後の左室リモデリング,非侵襲的な心機能,および血行動態の評価にも有用である250, 463-467).一方で,胸痛の鑑別診断となる急性大動脈解離,肺血栓塞栓症,AS,閉塞性肥大型心筋症,たこつぼ症候群,および心膜炎などの診断も可能である.急性期にはACSの診断と胸痛の原因となる致死性疾患の鑑別に,焦点を絞った経胸壁心エコー法(FoCUS)が有用である468).したがって,経胸壁心エコー法は,胸痛を訴える症例,ACSを疑う症例,ACSと診断された症例において日常的に使用できるようにし,これらすべての患者に行うべきである(表57) 450). 1.2 判読 1.2.1 壁運動の評価 心筋灌流障害により心筋虚血が生じると,左室壁運動異常は心電図変化や胸部症状に先行して生じる469).したがって,ACSの心エコー法診断において左室壁運動の評価は最も鋭敏かつ重要な所見である470-473).壁運動の異常は,心内膜の内方運動の低下または消失,ならびに壁厚 変化の減少または消失によって目視で判断する470).壁運動は,正常壁運動(normokinesis),低収縮(hypokinesis),無収縮(akinesis),および奇異性収縮(dyskinesis)に分類される3).壁運動異常を認める領域は左室短軸断面および長軸断面の多断層面で評価する.左室の局所壁運動は,冠動脈の支配領域に応じて,左室壁を心基部6セグメント,中部6セグメント,および心尖部4セグメントの計16セグメントに分割して行う3). 急性心筋梗塞においては左室収縮不全の程度が予後と関連するため,心筋梗塞の広がりと壁運動異常の重症度を定 第15章 虚血性心疾患 表57 ACS における経胸壁心エコー法(TTE)の推奨とエ ビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル TTE の壁運動評価により,ACS の診断,鑑別診断を行う. I B TTE により,急性心筋梗塞の梗塞範囲の診断を行う. I B心筋梗塞急性期に,TTE により心機能評価を行う. I B下後壁心筋梗塞症例において,TTE により右室梗塞の診断を行う. I B TTE により,急性心筋梗塞の機械的合併症および左室壁在血栓の診断を行う. I B治療方針決定のために,TTE により心機能,血行動態の評価を行う. I B FoCUS によるACS の診断,鑑別診断を考慮する. IIa B心筋梗塞の範囲,壁運動障害の程度についてTTE でのWMSI による定量化を考慮する. IIa B急性心筋梗塞退院前に,TTE の心機能,血行動態の評価による予後の推定を考慮する. IIa B ACS の診断にTTE スペックルトラッキング法の使用を考慮してもよい. IIb C