p.72 抽出テキスト
1 概要 たこつぼ症候群は突然の胸痛発作や呼吸困難,心電図変化,左室壁運動異常など,ACSと極めて類似した発症形態でありながら,冠動脈の支配領域では説明のできない左室心筋収縮障害をきたすことで知られている400, 401).高齢女性に好発し,男女比は1:9,50歳以上が90%を占める400, 401).本症候群は,精神的・身体的ストレスを受けた後に好発することが知られているが,約30%の症例では明確なストレスを伴わず発症する.悪性腫瘍や呼吸器疾患に合併して二次的にたこつぼ症候群を発症するほか,くも膜下出血時に数%の割合で合併することも知られている402).本症候群はACSとの鑑別が重要であるが,ACSが疑われる例の約2%が本症候群であったと報告されており,女性においてはACSが疑われる患者の実に約10%が本症候群であったと報告されている403).ACSは早朝に発症する場合が多いのに対して,たこつぼ症候群では日中の発症が多いとされるが,季節性については一定の見解はない.ACSにたこつぼ症候群を合併する場合もある404). 2 適応 たこつぼ症候群で心エコー法を施行する意義は,ACSとの鑑別,予後・合併症のリスク評価における壁運動異常のバリエーションの評価,左室流出路狭窄・MRの有無・重症度と機序の評価,心内血栓の有無を確認することである405).まれに,心破裂を合併する例があることも忘れてはならない.また,たこつぼ症候群の多くは,数日から数ヵ月で壁運動異常は正常化し,再発率は約10%とされているため,たこつぼ症候群の回復過程をモニタリングするのにも心エコー法は最適な検査法である406).本症における経胸壁心エコー法の推奨とエビデンスレベルを表52に示す. 3 判読 たこつぼ症候群の典型例は,左室心尖部の無収縮と左室心基部の過収縮を呈する.75~80%の症例でこの典型的な壁運動異常を示す400).経胸壁心エコー法のみではACSとの鑑別が困難な場合もあるが,左室壁運動異常が冠動脈支配領域では説明できないこと,たこつぼ症候群の左室壁運動異常は(心尖部から見て)左右対称に出現すること,などが鑑別の一助となる.ただし,たこつぼ症候群の壁運動異常には亜型が存在し,典型例以外では,左室中部が無収縮となる例(14.6~18.6%),左室心基部が無収縮(典型例と逆のパターン)となる例(2.2%),前壁の一部のみが無収縮となる例(1.5~6.9 %)が存在する400, 405, 407).また,右室の壁運動異常を合併する症例が18~34%程度存在し,このような症例では血行動態が不安定となりやすく予後不良である408-410). 左室流出路狭窄を18~25%に合併する411, 412).左室心尖部の無収縮と基部の過収縮にともなう収縮期僧帽弁前方運動がその発生機序である.元から存在したS字状中隔が関与していると思われる症例もある.左室流出路狭窄によるショック・心不全は,他の原因によるものとは対応が全く異なるため,正確な診断が必要である.またMRを14~ 25%に合併する413, 414).これも左室流出路狭窄と同様に 第12章 たこつぼ症候群 表52 たこつぼ症候群における経胸壁心エコー法(TTE) の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル たこつぼ症候群が疑われた場合にTTEを行う. I Cたこつぼ症候群の病態・合併症の評価のために,TTE による経時的観察を行う. I Cたこつぼ症候群の壁運動回復過程の経時的観察をTTE により行う. I C