p.53 抽出テキスト
2.3.1 一次性MR 症状の確認のほか,逆流の重症度,運動誘発性肺高血圧の有無,左室および右室収縮予備能の評価を行う.逆流重症度はPISA法もしくはvolumetric法により評価し,運動時に逆流量15 mL以上の増加は心血管イベントの予測因子となる131).また運動時の推定肺動脈収縮期圧60 mmHg以上に達する運動誘発性肺高血圧は心血管イベントの予測因子となる311). 2.3.2 二次性MR 血行動態(前負荷・後負荷)により重症度が大きく変化することが知られており,運動誘発性二次性MRは予後,急性肺水腫,運動耐容能低下などと関連することが知られている125, 135, 136).運動時に有効逆流弁口面積が0.20 cm 2以上,もしくは安静時から0.13 cm 2以上増加する群は予後不良である135-138).また,運動時の推定肺動脈収縮期圧60 mmHg以上の運動誘発性肺高血圧は,心血管イベントの予測因子となる139).MRは臥位エルゴメータ運動負荷やトレッドミル運動負荷だけではなく,ハンドグリップ負荷においても増悪することが報告されており312, 313),運動負荷心エコー法が困難な施設においてはMRの重症度評価にハンドグリップ負荷も考慮する. このように一次性および二次性MRの運動負荷による変化を定量的に評価した臨床研究がいくつかある.しかしMRの定量評価は簡単ではなく,運動負荷中の定量化はさらに困難である.定量化が困難な場合にはその限界を理解した上で運動負荷心エコー法所見を解釈して,臨床判断に活かすことが重要である. 2.4 治療選択のための判読 僧帽弁逸脱に伴う慢性一次性重症MRの治療方針の決定には,症状の他に 1左室内径や収縮機能,2肺高血圧(>50 mmHg)の有無,3心房細動の有無が重要な因子となる314-321).症状が軽微であってもLVEFが60%以下に低下している例や,左室収縮末期径が40 mm以上の例では手術適応となる.たとえこの基準に達していなくても経過とともに左室収縮機能低下が進行する場合も手術適応となるため,心エコー法による正確な左室径およびLVEF計測が求められる. これらの安静時基準を満たさない症例においても,運動負荷により肺高血圧(肺動脈収縮期圧>60 mmHg)が出現する場合や,左房拡大(≧60 mL/m 2)がある場合には早期手術の対象となりうる125, 322).無症候性で左室収縮機能低下がなく,肺高血圧や心房細動を合併しない患者の早期手術においては,逸脱の形状による形成術の難易度が手術適応の重要な決定因子となるため,経胸壁心エコー法および経食道心エコー法による正確な逸脱部位診断が必須である323-325).各施設の弁膜症チームによる協議により,安全で確実な耐久性のある形成が可能であると判断された場合には早期手術の対象となる.その他,リウマチ性MRでは弁の器質的変化のために弁形成が困難であるため,基本的には弁置換術の適応となる.適切な治療選択のためには,心エコー法による正確な原因診断が不可欠である.機能性・虚血性MRでは,弁尖に器質的変化がなく,左室リモデリングによる僧帽弁テザリングにより逆流が生じる326, 327).左室機能の評価に加え,テザリングの程度(テント高[tenting height]やテント面積[tenting area]で評価する)や弁形態,弁輪拡大の程度などの評価のためには心エコー法が極めて有用である.機能性MRに対する弁輪形成術後には,しばしば逆流が再発し,機能性MSの状態となる328).弁輪形成術に加えて弁下組織によるテザリングを減少させるために乳頭筋や左室心筋へ介入する各種手術も行われるが,弁置換術の長期成績との差が明らかではなく,施設の状況を踏まえて個々の症例で手術法が選択されているのが現状である.機能性MRにおいては経皮的僧帽弁形成術(MitraClip R)による治療も選択肢となるため,個々の症例における介入の適応判断が重要である. また,左室機能低下による機能性MRの他に,心房細動患者に合併する左房・僧帽弁輪拡大に伴うMRが,機能性MRの新たな概念として考えられるようになっており(心房性機能性MR) 329, 330),心房細動に対する内科治療・アブレーション治療の効果や手術適応・手技について新たな知見が得られている.これらの一次性および二次性MRの治療法選択においては,経胸壁および経食道心エコー法による心機能と心室や弁の形態の観察が不可欠であり,断層法および3D心エコー法を用いた詳細な術前評価が重要な役割を果たす.