p.49 抽出テキスト
1 僧帽弁狭窄症(MS) 1.1 適応 僧帽弁の弁口面積が狭小化することにより,左房圧負荷が生じ,左房拡大,さらには肺うっ血をきたし,心拍出量が低下する病態である.軽度狭窄例では無症状であるが,中等度以上の狭窄例では息切れなどの左心不全症状を訴える.肺高血圧から三尖弁逆流をきたし,右心不全症状が出現する.心房細動を合併し,動悸を訴えることも多い.左房拡大と心房細動のため左房内で血流はうっ滞して血栓が形成され,脳梗塞などの全身塞栓症を引き起こす.聴診ではI音の亢進,僧帽弁開放音,心尖部拡張期輪転様雑音(ランブル)が特徴的である.胸部X線写真では左房拡大,肺うっ血所見をみる.上記所見がある場合には僧帽弁疾患を疑い,経胸壁心エコー法により診断と重症度および原因評価を行う306). 1.2 判読 小児期に罹患したリウマチ熱が原因のリウマチ性と,加齢による僧帽弁輪石灰化による非リウマチ性がある.断層像にて弁の開放制限を認めることで診断がつき,リウマチ 性の場合には交連部の癒着,弁の肥厚,弁下組織の変性(肥厚,短縮,癒合)が認められる.前尖の可動性は比較的保たれていることが多く,拡張期に前尖が左室側に膨らむような形態をとる(ドーム形成).後尖は初期より可動性が低下し,左室後壁に対し直立したような形態をとる.病変は進行し交連部のみならず弁尖の輝度も増大し,しばしば石灰沈着がみられる.高じると石灰化は腱索から乳頭筋にまで及ぶ.これらの情報は経皮的経静脈的僧帽弁交連切開術(PTMC)の適応を決める際に重要である307).重症度は断層法(トレース法),連続の式,またはPHT法により求められる弁口面積やPHTの値そのもの,平均圧較差(mPG),弁や左房の形態から判定する(表30) 122).非リウ マチ性は弁輪部から進展する弁尖の石灰化が特徴であり, PHT法による弁口面積推定は不正確になる.MSの左房は拡大しており,しばしば合併する心房細動と相まって内部に血栓を形成するが,その検出には経食道心エコー法が適している.僧帽弁疾患は二次性肺高血圧を高頻度に合併するため,TRVから肺高血圧の有無・程度を評価することは有用である.表31にMSにおける心エコー法の推奨とエビデンスレベルを示す122). 1.3 負荷心エコー法 (第1章 3. 負荷心エコー法を参照) 主に運動負荷心エコー法が用いられる.安静時心エコー 第5章 僧帽弁疾患 表30 MS の重症度評価 軽症中等症重症 MVA 1.5~2.0 cm2 1.0~1.5 cm2 <1.0 cm2 mPG* <5 mmHg 5~10 mmHg >10 mmHg拡張期PHT* <150 ミリ秒150~220 ミリ秒>220 ミリ秒* mPGおよび拡張期PHTは血行動態の影響を受けるため,参考程度とする. MVA:僧帽弁口面積,mPG:平均圧較差(日本循環器学会/日本胸部外科学会/日本血管外科学会/日本心臓血管外科学会.2020 122)より)