p.37 抽出テキスト
3.3 LVEFが保たれていて,明らかな心筋疾 患を認めない症例における左室拡張機能 の評価 中隔側あるいは側壁側のe’,中隔側と側壁側の平均値を用いたE/e’,TRV,LAVIを計測し,これらの4 つの指標のうち3指標以上が異常値をとる場合に左室拡張機能障害ありと判定する.3指標以上が正常な場合には正常左室拡張機能と判定する(図12) 193).また,4指標のうち3指標の みが評価できた場合には,2指標が異常値の場合に左室拡張機能障害あり,2指標が正常値の場合は正常左室拡張機能と診断する193).4指標のうち2指標が異常値の場合には判定不能となる. 3.4 左室収縮機能障害症例,左室心筋疾患の 存在が明らかな症例における左室充満圧 の推定と拡張機能分類 左室収縮機能障害や陳旧性心筋梗塞,左室心筋疾患では通常左室弛緩能はすでに低下しているため,左房圧上昇の判定が重要となる.前項で左室拡張機能障害ありと判定された症例においても本アルゴリズムが適用される226). LVEFが保持された症例の潜在的な左室収縮機能障害の存在を診断するにはGLS,収縮期僧帽弁輪最大移動速度(s’)やMAPSEが役立つ場合がある193).これら指標の有意な 低下があれば,たとえLVEFが維持されていても後述のアルゴリズムが適応できる.E波が50 cm/秒以下でE/Aが0.8以下の場合,左房圧は上昇していない可能性が高く, Grade I(弛緩障害型)と診断する.反対に,E/Aが2.0以上の場合には左房圧の高度上昇を示唆するGrade III(拘束型拡張機能障害)と診断する.これらにあてはまらない場合,E/e’(中隔側,側壁側の平均)>14,TRV>2.8 m/秒, L AVI>34 mL/m 2 のうちの2指標以上が陽性であればGrade II(偽正常型),2指標以上が陰性であればGrade I (弛緩障害型)と診断する.2指標しか判定できず,そのうち1指標のみ陽性の場合は判定不能とするが,左室収縮機能障害例では肺静脈血流速波形のS/Dが1未満であればGrade II(偽正常化型)と診断できる(図13) 193). 3.5 E/AやE/eʼが適用できない病態 E/AやE/e’が適用できない病態では上述のアルゴリズムを用いることができない.アルゴリズムの適用が困難な病態を表18に示す. 心房細動は心不全に高頻度に合併するが,A波を欠くためE/Aは適用できず,左室充満圧の推定はしばしば困難である.左室収縮機能障害を有する心房細動においては, DcTの短縮が左室充満圧上昇の予測に有用であり,その他の指標としてE波の加速度(≧1900 cm/秒2),等容性弛緩時間(≦65 ミリ秒)や肺静脈血流のD波減速時間(≦ 220 ミリ秒)などが用いられる193).不整な心周期長のため複数心拍を平均する必要があり,連続10心拍の平均が推奨されるが日常診療での実践は難しい.平均心拍数の10 ~20%の心周期長内にある3心拍を平均した値を用いることも有用とされている193). 肥大型心筋症では左室充満圧上昇時にもE波が増大しにくいことが知られているため,E/Aが低値であっても左室充満圧の上昇は否定できず,E/e’(中隔側,側壁側の平均) (>14),肺静脈血流のA波と左室流入血流のA波の持続時間の差(≧30 ミリ秒),TRV(>2.8 m/秒),LAVI(> 34 mL/m 2)のうちの3項目以上が陽性の場合に左室充満圧の上昇と診断され,E/Aが2以上でe’が低値(中隔側<7 cm/秒,側壁側<10 cm/秒)の場合には拘束型拡張障害と診断される193). 中等度以上の僧帽弁輪石灰化があると僧帽弁口の狭小化によりE波は増大し,僧帽弁輪の運動が制限されてe’は減速する可能性があるため,左室充満圧の上昇がなくてもE/ e’は上昇し,E/e’による左室充満圧推定は推奨されな い. 図12 LVEF が保たれていて,明らかな心筋疾患を認めな い症例における左室拡張機能の評価(Nagueh SF, et al. 2016 193)より) Copyright (2016) by the American Society of Echocardiography, with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/journal-of-the-american-society-ofechocardiography 正常LVEF患者 1. E/e’(中隔側,側壁側の平均)>14 2. 中隔側e’<7 cm/秒または側壁側e’<10 cm/秒3. TRV>2.8 m/秒4. LAVI>34 mL/m2 <50%陽性 正常拡張機能50%陽性 判定不能>50% 陽性 拡張機能障害