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p.36 抽出テキスト

左室流入血流速波形では拡張早期波(E波)と心房収縮波(A波)の最大速度,その流速比(E/A),およびE波の減速時間(DcT)が計測される.拡張早期には左室心筋の能動的弛緩と弾性反跳により左室圧は急速に低下して左房圧を下回って僧帽弁が開放し,房室間圧較差に従って左室の充満が起こり,これがE波の血流速度として反映される.その後心筋のコンプライアンスや心外からの拘束力などにより左室圧は上昇を開始し,やがて房室間圧較差は減少してDcTに反映される.心房収縮期には左房圧が急速に上昇し,再び房室間に圧較差が生じて左房から左室へ血液が流入しA波を形成する.

この左室流入血流速波形は左室弛緩能の低下により正常型から弛緩障害型へ変化し,さらに拡張機能が悪化して左房圧上昇をきたすと偽正常化型,拘束型へと変化する.健常な若年者では良好な左室弛緩能により心室充満の大部分は拡張早期に起こり,左房収縮による血液流入はわずかなためE/Aは1.5以上をとる226).加齢とともに左室弛緩能が低下すると,E波は減高して左房収縮の寄与が大きくなり,E/Aは低下する226).弛緩障害型ではE/Aは0.8以下, E波は通常50 cm/秒以下となる226).また,心筋弛緩の遅延により左房左室間の圧較差の減少率が低下してDcTは延長する.弛緩障害とコンプライアンスの低下により左房圧の上昇が起こると房室間圧較差が増大し,E波最大速度の増大が生じる.このような状態では心房収縮直前の左室

圧も上昇しており,心房収縮による左室流入は減少しA波は低下する.このような波形を拘束型といい,E/Aが2.0以上をとる226).さらに,左室コンプライアンスの低下のため拡張早期の左室圧は通常より速く大きく上昇して左房圧を凌駕し,これによって血流は急速に減速してDcTは短縮し,拘束型ではDcTは160 ミリ秒未満となる.弛緩障害型を呈する例が拘束型に移行する過程において偽正常化が認められる.左室流入血流速波形だけでは正常と偽正常化の鑑別が困難である.さらに,左室流入血流速波形の変化は, LVEFの保たれた冠動脈疾患227)や肥大型心筋症228, 229)などの疾患では左室充満圧との関連性が減弱するため,左室形態の異常,肺静脈血流速波形,組織ドプラ法を用いた僧帽弁輪最大移動速度191, 223, 224, 230)・左房容積225)・TRV 231, 232)などの複数の指標を用いて左室充満圧上昇の有無を推定する.

組織ドプラ法による拡張早期僧帽弁輪最大移動速度(e’)は,左室弛緩能の指標とされている.左室流入血流速波形のE波は左房圧と左室弛緩能の両者の影響を受けて二相性に変化するが,これを左室弛緩能と一方向性に相関するe’で除したE/e’は左房圧と直線相関し,平均左房圧の推定に用いられる191, 223, 224, 230).

肺静脈血流速波形は,収縮期陽性波(PVS波),拡張早期陽性波(PVD波)と心房収縮期陰性波(PVA波)で構成され,それぞれの時相の肺静脈と左房の圧較差により規定される.若年者では左室は良好な弛緩により拡張早期の急速充満が亢進しており,D波は速く,S/Dは1未満をとる.加齢に伴う左室弛緩能の低下とともにD波の減高と代償性のS波の増高が起こり,S/Dは40歳以上で1以上をとるようになる233).左房圧が上昇すると左房v波の増高により心室収縮期の肺静脈‒左房圧較差が減少してS波は減高し,左室流入血流のE波増高とともにD波も増高してS/Dは1未満となる.心房収縮期に生じるPVAの速度やPVAの持続時間は左室拡張末期圧と深く関連し,深いPVA波や持続時間の延長は左室拡張末期圧上昇を示唆する226).左室充満圧が高い状態が長期に及ぶほど左房の拡大は進行するため,左房容積は左室拡張機能障害の程度と期間を反映する234).

近年,とくに救急領域において肺エコー法による左房圧上昇・肺うっ血の診断が行われるようになった.肺うっ血が生じて血管外の水分量が増加すると,胸膜から放射状に伸びる高エコー像が認められ,これがBラインと呼ばれる.肺内の血管外水分量が増加するほどBラインの数も増加する235).評価法は報告により異なるが,前胸部から側胸部の複数箇所にプローブをあててBラインの数が多いほど肺うっ血が生じている可能性が高いとされている236).

表17 経胸壁心エコー法(TTE)による左室拡張機能評価

の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

心血管リスク評価を目的としてTTE 施行時に左室拡張機能分類を行う. I A心疾患患者における予後予測のために, TTE によりLAVI 計測を行う. I A左室収縮機能障害症例における予後予測のために,TTE によりDcT 計測を行う. I B LVEF が保持された症例におけるe’ を用いた左室弛緩障害の検出のため,TTE を行う. I B左室収縮機能障害例において,TTE によりE/A, E 波速度,E/e’, LAVI, TRV を用いた左室充満圧推定を行う. I C左室に器質的異常のない症例において, TTE によるE/e’, e’, LAVI, TRV を用いて左室拡張機能評価を行う. I C LVEF の保持された左室拡張機能障害症例において,TTE によるE/A,E 波速度, E/e’, LAVI, TRV を用いた左室充満圧推定を考慮する. IIa C