p.48 抽出テキスト
4.4 小児に対する配慮 心エコー法,CT,MRIなど非侵襲的検査法の進歩に伴い,以前のようなルーチンの診断検査法としての心臓カテーテル検査は施行されなくなってきた183).しかし,重症の先天性心疾患を有する小児は,早ければ新生児期より心臓カテーテル検査やインターベンション治療を受けることになる.近年では治療機器の進歩により,従来は外科的手術により根治可能であった先天性心疾患に対してもインターベンション治療が行われるようになった.心血管造影手技全体の約7%は0~15歳の小児に行われていると推定される161). 小児における放射線の確率的影響の感受性は成人の約2 ~3倍と高く21).さらに実効線量とKAPの関係は年齢によって大きく変わり,同じKAP値でも実効線量に約10倍の差が生じる184).小児は潜在的予測寿命が成人より長いので,放射線関連後遺症を発症しうる時間がより長い.小児では,透視ガイド下インターベンション手技1回あたりの致死的癌発症の確率は約0.07~0.08%と推定されているが,このリスクは患者の年齢,基本的な平均余命,手技の実施方法によって大きく異なる可能性がある185, 186). 最も広範に実施されている手技はバルーン弁形成術,心房中隔欠損・卵円孔開存または動脈管開存に対する閉鎖術,肺動脈狭窄・大動脈狭窄に対する人工弁留置術,および電気生理学的検査である187).診断カテーテル検査に比べカテーテル治療は透視時間が長く,シネ撮影回数も多いので,被ばく線量が多くなる188).したがって,「ALARAの原則」(p. 11参照)に基づいた防護の最適化を図ることがきわめて重要である189). 被ばく線量低減の方策は成人に対するものと同様であるが,体格の小さい小児では被写体からの散乱線発生が少ないため,8歳まで,または体重20 kg未満では散乱線除去グリッドを外して手技を行うことで,被ばく線量を低減できる189–192).小児のカテーテル検査・治療はバイプレーン装置にて行うことが推奨されており193),側面像への上肢の投影を回避するために上肢を挙上させて行う.自然肢位で肘が側面画面内に映り込むため,上肢をしっかり挙上させる必要があるが,長時間に及ぶ上肢挙上は末梢神経障害をきたす場合があるので注意する194). 小児は体格が小さいため穿刺部位と撮影部位が近く,術者がX線管に近い位置で手技を行う場面が多い.また全身麻酔と鎮静下にて行われるため,術者だけでなく麻酔医を含めたスタッフに対する被ばくについても,吊り下げ式防護板,防護スカート,防護衝立,防護眼鏡などで防護措置を徹底しなければならない104). 4.5 Q&A 【Q 9 】 医療従事者の線量限度 インターベンション治療従事者は被ばく線量が多く,放射線障害が心配です.年間どのくらいの治療に携わった場合に健康に影響がでますか. A 現行のX線装置の完成度は高く,装置からの漏洩はほとんど考えなくてよい.術者の被ばくに寄与するのは主に患者からの散乱線であり,術者の被ばく線量を低減するには散乱線を制御することが重要となる.換言すれば,患者の被ばく線量低減が術者の被ばく線量低減につながる. PCIは高線量率のX線透視を長時間行うため,患者の近傍で作業するPCI術者の被ばく線量は,他の放射線業務従事者に比べて高く,眼の水晶体の白内障が起きた事例が報告されている.ICRP publication 118(2012年)を受けてわが国でも医療従事者の実効線量限度は2021年4月から,水晶体について5年合計で100 mSv,かつ50 mSv/年,皮膚は500 mSv/年と変更される.法令では,心カテーテル検査などに従事する放射線業務従事者は,第2章の「3. 医療従事者における線量限度」で示した線量限度を超えて被ばくしないように管理しなければならない. そのためには防護衣や防護眼鏡などの防護用具を用いて被ばく線量低減を図るとともに,ガラスバッジ® などの個人線量計を着用し,線量限度を超えないように管理された環境下で作業することが重要である104–106).【Q 10】 防護衣の種類による防護効果の違い 放射線業務従事者の放射線障害の予防手段としての防護衣には,鉛当量の違いと,コート型,エプロン型,セパレート型がありますが,被ばく線量低減効果にどのような違いがありますか. A 防護衣は防護能力が高いほどよいが,一般的に防護能力の高いものは重い.重い防護衣を着用すると,診療行為に対する集中力の低下や腰痛の原因になることもある. 現在JISでは鉛当量が0.25 mm,0.35 mm,0.50 mmのシートを防護衣の材質として規定している.一般的に鉛当量の大きなものほど防護能力は高くなるが,それに伴ってより重くなる.防護衣の遮蔽材の厚さと遮蔽能力を実際に計測したところ0.25 mm鉛当量で十分な遮蔽能力が得られており,0.25 mmと0.35 mmとで遮蔽能力に有意差はない104, 106, 196).したがって術者は,重い素材で全身を包むのではなく,0.25 mm程度の比較的軽いものを使用し,その他の防護用具を併用することが推奨される. 患者に対して背中を向けないようにすれば,背側から入射するX線量はさほど大きくはないので,重量も大きく作