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p.29 抽出テキスト

生率も上昇するが,成人では100 mGy以下の被ばくで癌の発生率が上昇するかどうかは科学的に不明であることを念頭に置く必要がある114).

以上のことを考慮したうえで,放射線被ばくの正当化と最適化を十分検討し,その結果を対象となる女性にしっかりと説明し,当事者の理解を深めることが重要である.

4.2 胎児の被ばく線量

循環器診療においては胸部領域が検査や治療の対象となることが多い.この場合,被ばく部位が骨盤と離れているため,胎児の被ばく量は基準を超えるものではなく,限定的である.もちろん,胎児を含んだ部分が検査や治療の対象となる場合はその限りではない.しかしながら,放射線が入射する表面の線量がそのまま胎児の被ばく線量となるわけではなく,母体で吸収された残りが胎児の被ばくとなる.

ICRP Publication 84「妊娠と医療放射線」(2000年)に記載されている「英国における通常の診断手法から受けるおよその胎児線量」を表16に示す113, 115).現在,胸部単純X線撮影のDRL 29)は入射表面線量で0.3 mGyである113).この値は多くの集積データから導かれており,実臨床の値と解離はないと考えられている.胸部単純X線撮影のときの胎児線量は0.01 mGy以下と,DRLと比較して1/30以下となることから,被ばく部位が胎児と離れている場合の被ばく線量の低さがわかる.一方,腹部単純X線撮影では, DRLは入射表面線量で3 mGy,胎児線量は平均で1.4 mGyで,1/2程度の比率となる.しかしながら,双方のデータが公表された時期は,DRLが2015年であるが胎児線量は1998年となっており,イメージングシステムや撮影装置の進歩から考えると胎児線量が高く想定されている可能性は否めず,その比率はより低くなると考えられる.

一般にCT検査の胎児被ばく線量は単純X線撮影の被ばく線量より高いが,中でも骨盤で25 mGyとかなり高い線量であることがわかる(表16).DRLの値は上腹部~骨盤1相で20 mGyとなっているが,これは被写体となるアクリル樹脂の1点における平均的な線量であるCTDIを表しているため単純に比較はできないものの,1998年の胎児線量よりは低い値となっている.また,昨今,逐次近似再構成処理という画像処理技術が登場し(第3章,p. 34,35参照),画像の質を確保しつつ被ばくを低減できる手法として浸透してきており116),胎児線量のさらなる低減が期待できる117). 4.3 線量限度としきい線量

妊婦の職業被ばくの線量限度は法律で定められている.「電離放射線障害防止規則」97)では「妊婦の内部被ばくによる実効線量は1ミリシーベルトを超えないこと」,「外部被ばくによる腹部表面の等価線量は2ミリシーベルトを超えないこと」とされている.職業被ばくは繰り返されることが常であり,業務による被ばくが避けられないことを考慮して,詳細な限度が設けられ,また個人被ばく線量計などを用いて管理されている.なお,患者の被ばくは医療被ばくであり,必要な検査や治療を受けられないことを避けるために線量限度は適用されないため,胎児被ばくで悪性腫瘍,遺伝的影響などが懸念される.

胎児被ばくにおける障害発生の胎児発育期間としきい線量を表17,18に示す118).ICRPは,胎児線量が100 mGy以下あれば感受性が最も高い時期においても胎児の健康影響を考慮する必要はないとしている114).さらに現在の医療機器では胎児被ばくが100 mGyに達するとは考え難く,胎児被ばくは放射線診断領域では問題にならないと考える.しかしながら,このことはあくまでも専門的知見であり,通常よりさらにデリケートな精神状態にある妊婦には,十分な説明が必要であることはいうまでもない.

4.4 放射線防護

妊娠中の医療従事者は上記の点も含めて適切な放射線

表16 英国における通常の診断手法から受ける胎児線量

検 査平均線量(mGy)最大線量(mGy)

従来型X線検査腹部胸部静脈性尿路造影腰椎骨盤頭蓋骨胸椎1.4 <0.01 1.7 1.7 1.1 <0.01 <0.01 4.2 <0.01 10 10 4 <0.01 <0.01透視検査バリウム造影(上部消化管)バリウム注腸造影1.1 6.8 5.8 24 CT検査腹部胸部頭部腰椎骨盤8.0 0.06 <0.005 2.4 25 49 0.96 <0.005 8.6 79 (ICRP 84, 2002 113)より引用,Sharp C, et al. 1998 115)より改変)