p.11 抽出テキスト
なお,職業被ばくと医療被ばく以外の,公衆が受けるすべての被ばくは公衆被ばくとされ,妊娠している女性放射線業務従事者の胚や胎児の被ばくも公衆被ばくとなる. 2.3 放射線防護の目的と3原則 放射線防護の目的を達成するために,ICRP Publication 60(1990年勧告)では以下の3点が挙げられている(表4) 21). 1) 放射線利用が利益をもたらすことが明らかである場 合,放射線被ばくを伴う行為を不当に制限することなく,人の安全を確保すること. 2) 個人の確定的影響(組織反応)の発生を防止すること (組織反応はある一定線量〔しきい値〕以上の被ばくにより発生するため,その発生が起こらないようにする). 3) 確率的影響の発生を減少させるためにあらゆる合理的 な手段をとること.これらを達成し,人の安全を確保するためには,どのような放射線防護対策を講じる必要があるかを示したのが,放射線防護体系であり,ICRP Publication 113(2007年)以降は「行為の正当化」,「防護の最適化」,「線量限度」の3原則にまとめられている21, 22). 2.4 行為の正当化 行為の正当化は,放射線被ばくを伴う診療行為によって引き起こされる放射線障害よりも患者が受ける便益が確実に勝っていると判断された場合に成立する.ICRP Publication 103(2007年勧告)では,行為の正当化について,医師の経験と専門的判断を尊重しつつ,できるかぎり定量的な決定を行うための支援として,正当化を以下の3つの段階に分類して適用することが提案されている22).第1レベル:医学における放射線利用の正当化 医学における放射線利用は,患者への便益がリスクを上回る場合に許容される.第1レベルの正当化については,放射線の医療への利用が医学的に認められている現時点において議論の余地はない.第2レベル:定義された放射線医学的手法の正当化 特定症状を示す患者グループの診断あるいは治療における放射線利用の正当化が第2レベルに該当する.第2レベルでは,個々の疾患の診断または治療において放射線利 用の便益がリスクを上回るかどうかを,各国の放射線防護当局と専門家が検討して一般的な原則を定める.国や国際レベルで定期的に診療の効果と放射線使用のリスクについて検討すべきとされている.海外においては,英国王立放射線科専門医会,米国放射線専門医会からガイドライン28)が出され,その国での診療の適切性を客観的に保証している例もある.第3レベル:個々の患者への手法の正当化 放射線の医学的利用において,個別の患者における適用の正当化が第3レベルに該当する.第3レベルでは,診断あるいは治療の手法が当該患者においてリスクよりも便益を多く与えると,担当医師が判断する必要がある.医師によりすべての検査や治療がその目的や患者個人の特性を考慮して正当化されるべきであるが,特に高線量を伴う診断や治療においては個別の正当化が重要となる. 2.5 防護の最適化 防護の最適化は,行為の正当化により放射線利用が決定された後に実行される.ICRP Publication 60(1990年勧告)以降は「合理的に達成できるかぎり低く(as low as reasonably achievable):ALARAの原則」という表現が用いられ,個人の被ばく線量を,経済的および社会的な要因を考慮に入れたうえで,合理的に達成できるかぎり低くするように求めている.防護の最適化とは,放射線防護手段に必要となる費用,個人の被ばく線量,防護の方法,診断能や画質などを考慮しつつ,被ばく線量を低くすることであり,必ずしも被ばく線量を最小化することではない. 2.6 最適化のための診断参考レベル 診断参考レベル(DRL)は放射線診療における医療被ばく防護の最適化を推進するためにICRP Publication 73 (1996年)にて提唱された.「調査のためのレベルの一種であり,容易に測定される量,通常は空気中の吸収線量,あるいは単純な標準ファントムや代表的な患者の表面の組織等価物質における吸収線量に適用される」と定義され18),多くの地域や国々で用いられている.国際原子力機関(IAEA)でも,それまで用いていた概念である「ガイダンスレベル」に代えて,DRLを最適化のためのツールとして採用した. DRLの有用性はICRP Publication 103(2007年勧告)により明確に示され22),実際の線量調査データに基づく設定と柔軟な運用,そして定期的な調査による改訂が必要とさ 表4放射線防護のための具体的目標・放射線診療による利益が不利益より勝っている・組織反応(確定的影響)の発生を防止する・確率的影響の発生を減少させる(ICRP. 1991 21) より作表)