GL検索 v0.1.0
画像は 99 ページを描画したものです
page 99

p.99 抽出テキスト

PQ 10急性Stanford A型解離の手術術式は上行置

換(hemiarchを含む)か,全弓部置換か推奨entryが弓部~近位下行大動脈や弓部分枝に存在する,弓部大動脈が拡大している,Marfan症候群,若年,などが全弓部置換の適応と判断されるが,術前患者状態や施設・手術チームの経験を勘案して総合的に判断する.

急性A型解離に対する手術の目的は第一に救命である.したがって,術式選択に関しては,entry部位や解離の進展範囲などの解剖学的要件とともに,患者の術前状態(意識レベル,malperfusionの有無,年齢など)や手術侵襲とのバランスなどを考慮した,適切な判断が求められる.

日本胸部外科学会の年次報告43)によれば,急性A型解離に対する上行置換(hemiarchを含む),基部置換,弓部置換,基部~弓部置換の症例数は,それぞれ2738例,190例,1426例,180例で,上行置換は弓部置換の約2倍である.術式ごとの院内死亡率は10.4%,22.1%,11.3%, 17.8%であり,死亡率は基部置換の有無によって大きく異なる.一方,弓部置換の有無による死亡率の差はあまりなく,早期成績を見るかぎり,本邦における弓部置換の選択基準は現状において妥当性があると考えられる.

JCVSDの2015年と2016年の解析結果711)においても,急性大動脈解離(A型,B型を含む)に対する上行置換と弓部置換の治療成績の比較では,死亡率(弓部置換なし11.4%,弓部置換あり11.4%),脳梗塞(10.8%対11.9%),対麻痺(3.0%対3.4%)の合併率に差はなく,腎不全(10.3%対12.0%,P<0.05)のみに有意差を認めている.

以前は,entryが弓部に存在する場合でも治療の侵襲性を考慮して上行置換(hemiarch置換を含む)にとどめるべきとの考え方もあったが,弓部置換は上行置換よりも慢性期における遠位部の偽腔血栓化が高率で,偽腔拡大や再手術のリスクが低いことも示されており1097, 1099, 1100),良好な早期成績を考慮すれば,少なくとも弓部大動脈や弓部分枝にentryがある場合には,entry切除の原則に基づく弓部置換が推奨される.

偽腔拡大に対する慢性期手術の際にも,弓部置換後であれば初回手術とは別アプローチ(左開胸)による下行置換,TEVARなどが可能であるが,弓部置換が未施行の場合には前回手術と同一アプローチ(正中切開)による弓部置換の先行や,左開胸・循環停止など侵襲性の高い手術を要することになり,その点においても初回手術時に弓部置換を行う利点はある.

Marfan症候群の場合,entryが上行大動脈に存在していても,上行・hemiarch置換では,慢性期に残存する弓部大

動脈の拡大1101)や遠位側大動脈のイベントが多いため1102),弓部大動脈に解離があれば積極的に全弓部置換を考慮すべきである1063, 1064, 1066).

entryが下行大動脈に存在する場合も,ET法750)を用いた全弓部置換によって,末梢側の偽腔血栓化が得られやすく,追加治療にも有利である1088, 1094, 1103).近年,B型大動脈解離に対するTEVARの有効性が示されているが,下行大動脈にentryを有するA型解離に対するTEVARの治療効果に関してはエビデンスがほとんどなく,少なくとも現時点では一般的ではない.オープンステントグラフト法749)/ FET法592)は,近位下行大動脈のentry閉鎖1065)がより確実に可能で,急性期における末梢側の真腔拡大や臓器malperfusionの改善に加え,慢性期における偽腔血栓化や瘤拡大の抑制効果もあることが報告されている1060–1062, 1104, 1105).従来の弓部置換よりも末梢吻合を浅い術野で行うことができることも,全弓部置換を普及させる推進力となっている.今後,SCIの増加や遠隔期stent graft-induced new entryなどの課題が解決されれば,FET法を用いた全弓部置換の適応はいっそう広がっていく可能性がある.

一方,急性A型解離の全例に対して弓部置換を行う必要はなく,弓部にentryが存在する,弓部大動脈径が40 mm以上,弓部分枝のmalperfusionがある,などを適応として弓部置換を選択すれば,上行置換の遠隔成績(死亡,再手術など)は弓部置換と同等であるとの報告もある1073).また,すべての施設で弓部置換の早期成績が上行置換の成績と同等ではないので,術式選択に関しては,施設や外科医の習熟度,術前患者状態なども勘案すべきとの指摘もある1097, 1099).

急性大動脈解離に対する手術では,第一に良好な早期成績を達成し,そのうえで遠隔成績の向上を目指す術式を選択すべきである.

2.2.3 frozen elephant trunk(FET)

a. 歴史

急性大動脈解離に対する全弓部置換術において,遠位側大動脈の真腔拡大・偽腔閉鎖を目的とし,遠位側の下行大動脈内にステント付きの人工血管を挿入することが,加藤らによって始められた749).当初は,「オープンステント」または「サージカルステント」と呼ばれていたが,現在ではelephant trunk(ET) 750)にステントを装備したものとして,「frozen elephant trunk(FET)」592)と呼ばれることが多い.FETは限られた施設で自作デバイスを用いて開始されたが749, 1091, 1106–1108),2014年に国産の企業製デバイスが認可されると急速に普及した1109).海外のFETデバイスには分