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p.98 抽出テキスト

の有用性は高いが,外科用接着剤の組織毒性に起因する内膜壊死や仮性動脈瘤発生の報告が散見され1079, 1080),使用を少量に止めるなど細心の注意が必要である. ii. 大動脈基部置換術

tearがバルサルバ洞深くに及んでいる症例,大動脈弁輪拡張症を伴っている症例などでは,Bentall手術1081)が適応とされ,現在はbutton Bentall手術が標準術式となっている549).さらに最近は,Yacoubのremodeling法562)やDavidのreimplantation法1082)などのVSRRが試みられるようになった.これらの術式は大動脈弁尖に異常のない症例が適応で,術後抗凝固療法を必要としないなどの利点を有しているが,Bentall手術と比較して操作が複雑で習熟を要する.しかしながら,最近では循環動態が安定したmalperfusionを合併しない患者を選択して施行された場合570, 571)のみならず,患者選択を行わない場合においても良好な成績が報告され569),ハノーファー大学からは20年に及ぶ良好な長期成績が報告されている568).

2.2.2 弓部大動脈置換術

a. 術式

entryが弓部に存在する場合には,entry切除を原則とする大動脈解離の治療という観点から,できる限り上行・全弓部置換が望ましい1083).また,弓部の解離が複雑で弓部の修復が必要な場合,弓部分枝のmalperfusionを伴う場合,弓部分枝自体にentryが存在する場合,弓部が瘤化・拡大している場合,なども全弓部置換の適応となる. Marfan症候群やLoeys-Dietz症候群などの遺伝性結合織異常に発生したA型解離においては,entryが上行大動脈に存在していても,上行・hemiarch置換を行った後の慢性期に弓部大動脈以下の拡大が認められることが多いため,全弓部置換の適応となる1084, 1085).

全弓部置換を実施する場合には,内膜側からの補強,吻合部のリーク予防,末梢側偽腔の閉鎖などの目的,さらには下行大動脈以下の拡大に際しての追加治療を容易にする目的で,下行大動脈の真腔へ径18~22 mm,長さ5~ 10 cm程度の人工血管を内挿して吹き流し様にするET法750, 1063, 1086)を併用することが推奨される.また,A型解離の中には,entryが下行大動脈に存在する例1087, 1088)もあり,それに対する術式は左開胸でentryを切除して遠位弓部・下行大動脈置換を行うよりも,胸骨正中切開による全弓部置換+ET法を行うことで,末梢側偽腔の血栓閉鎖化を期待できる1089).

全弓部置換の手術手技は,最初に末梢側の残存偽腔を閉鎖するよう断端形成を行い(ET法の併用),弓部再建用の4分枝付き人工血管を縫着する.次いで,大動脈中枢側吻合を行って,弓部3分枝を順次再建する.もしくは,弓部3分

枝再建を先行させる.一方,近年FETを下行大動脈に挿入し,全弓部置換術を行う手術も増加してきた1090–1092).FET法は,これまでのET法に比べて偽腔閉塞率がやや高いことが知られているが,SCIと遠隔期に新たなentry(stent graft-induced new entry)を発生させるという欠点をもつ.このFETの詳細については,次項(2.2.3.frozen elephant trunk)に譲る. b. 成績

画像診断法の進歩により大動脈解離発症直後の早期診断が可能となり,また,人工心肺確立時の送血路の工夫や補助手段の改良による脳保護の進歩,さまざまな止血材の導入により,治療成績は向上している.特に本邦の成績は世界的にみてもきわめて良好である1072, 1093, 1094).この成績の違いが,人種差によるのか,手術手技に起因するのか,あるいは患者搬送や緊急手術受け入れまでの迅速さなどのシステムによるものかは,今後検討されるべきである.

日本胸部外科学会学術調査によると,本邦で2016年度に登録された5461例の急性大動脈解離のうち,基部置換を併施していない全弓部置換術1426例の成績は,30日死亡率が9.0%,院内死亡率は11.3%であった43). IRADの報告では,全1241例の登録症例中334例に全弓部置換術が施行され,院内死亡率は17.1%であった1095).German Registry for Acute Aortic Dissection Type A(GERAADA)における2137例の登録症例では,346例に全弓部置換術が施行され,30日死亡率は22.3%であった1096).

上行・hemiarch置換と比較して拡大手術となる全弓部置換術はより侵襲的と考えられるため,急性大動脈解離に対する救命手術としては上行・hemiarch置換で十分であるという議論がある.しかし,entry切除を原則とする手術を実施する場合,症例の前提条件が異なるので,この2つの手術成績の優劣に関する比較は困難である.Poonらはメタ解析で,急性大動脈解離に対する全弓部置換術とhemiarch置換術の比較を行い,2つの手術成績に有意な差がなかったことを示している1097).しかし,用いられたデータは症例数の多い施設や経験豊富な外科医によってのみ論文化されている可能性がある.また,ある施設における急性大動脈解離に対する手術の85%がhemiarch置換であるという報告もある1098).したがって,急性大動脈解離における救命手術としては,いたずらに置換範囲を拡大する必要はないことも銘記する必要がある.