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p.97 抽出テキスト

術がためらわれることが多いが,脳の早期再灌流が可能であった場合は神経学的予後が良好であることが報告されている1058).特に,神経症状が出現してから手術室到着まで5時間以内であれば,積極的手術の有効性が報告されている1058).

A型解離に対する外科手術では,tearのある上行大動脈置換術と,必要に応じて弁輪部の修復術が行われる.その場合,遠位部の偽腔が完全に閉塞するのは10%以下であるとされており1059),偽腔が残存し,将来,瘤化する可能性がある.近年,遠位弓部から下行大動脈にかけて,オープンステントグラフト/ FETを内挿することにより,malperfusionや将来の瘤化を防ぐことが可能であると報告されている1060–1062).しかしながら,手術時間延長と合併症増加の可能性があるため,適応は慎重に検討されるべきである.詳細については後述する.

2.2 急性

2.2.1 大動脈基部・上行大動脈・部分弓部大動脈置換術

a. 緊急手術の原則「tear-oriented surgery」と称し,tear(entry)を含む解離大動脈壁の切除と同部位の人工血管置換術を原則とする.すなわち,上行大動脈にtearが存在するならば上行大動脈置換,弓部にtearが存在すれば近位弓部置換術,全弓部置換術,近位下行大動脈にtearが存在するならば全弓部置換術+真腔内にET留置1063, 1064),あるいは下行大動脈置換術を行う.近年では遠隔期の遠位部大動脈リモデリング(偽腔の消退)を期待してオープンステントグラフト/ FETを留置することも多い1065).急性解離においてtearの直接閉鎖術で対応できる症例はほとんど存在しない.

近年,手術成績の向上に伴って,A型解離のうちtearが弓部あるいは弓部分枝,下行大動脈に存在する場合やMarfan症候群に伴うA型解離には,全弓部置換術にET/ FET法を併用した拡大再建術が施行されるようになり,その成績はおおむね良好である1066).以下に各術式を述べる. b. 上行大動脈置換術

胸骨正中切開で到達し,上・下大静脈または右房脱血,大腿動脈1067),上行大動脈真腔1068),腋窩動脈1069),心尖1070)などからの送血による体外循環を補助手段として用いる.脳,腹部臓器などのmalperfusionを合併している場合には送血路を複数にして,上行大動脈,腋窩動脈および大腿動脈送血を併用することがある.上行大動脈にtearが存在する場合,大動脈遮断下に上行大動脈置換を行うことも可能であるが,脆弱な解離大動脈壁を遮断すると大動脈損傷につながるため,厳重な注意を要する.現在の標準的な補

助手段は超低体温循環停止法1071)である.この時,上大静脈経由の逆行性脳灌流法を併用することもある.

手術は,超低体温循環停止としたところで上行大動脈を切開してtearの位置を確認し,これを周囲大動脈壁とともに切除する.置換範囲を決定して人工血管置換術を行うが,通常は末梢側吻合には大動脈遮断を行わず,超低体温循環停止下に遠位側開放下血管吻合術を用いる.また,tearが上行大動脈遠位側あるいは弓部近位側に存在する場合には,tearを切除して,腕頭動脈より左総頚動脈起始部付近まで大動脈弓小弯側に斜切開を延長し,斜めに切断した人工血管で置換するhemiarch置換を行う.その際,偽腔を閉鎖し真腔のみに血流が流入するように,内側・外側フェルトで断端形成を行った後,人工血管を吻合することが重要である.

治療の原則はtearを切除し救命することであるが,最近の末梢側置換範囲の傾向として,遠隔期の残存解離に関わる諸問題を回避する目的で,比較的若年で低リスクの症例1072)や弓部大動脈の拡大,脳灌流障害を伴う頚部分枝の解離した症例を選択し1073),上行大動脈・hemiarch置換術よりも弓部分枝を含めた全弓部置換術が選択されることが多くなっている.手術死亡率と術後合併症発生率を上昇させることなく施行可能とする報告が多いが,遠隔期生存率で明らかな優位性を証明する論文はいまだ少ない.

一方,中枢側は残存解離を減らすため,sino-tubular junction(バルサルバ洞・上行大動脈結合部)の直上で大動脈壁を離断,切除する.偽腔が残存する際には,偽腔内に生体糊や外科用接着剤を注入して偽腔を閉鎖,フェルトで補強して断端形成を行い,人工血管を縫着する.内側・外側フェルトのみで断端形成する方法,偽腔内にテフロンフェルトを挿入する方法1074),大動脈外膜を内翻し補強とする方法1075),などがある. c. 大動脈弁閉鎖不全の処置i. 大動脈弁吊り上げ術

解離の進展により大動脈弁交連部(特に右冠尖–無冠尖交連部)が離開し,弁尖が左室方向に下垂すると,弁逆流が発生する.Marfan症候群などに合併する大動脈弁輪拡張症や器質的大動脈弁病変を有する症例でなければ,大動脈交連部を吊り上げ,冠動脈遠位側(supra-coronary)で人工血管と吻合,近位側の遺残解離腔は生体接着材料などで閉鎖する術式が可能である1076).諸家の報告においても,大動脈弁吊り上げ術の遠隔成績は下記の人工弁付き人工血管による基部置換術(Bentall手術)と比較しても遜色なく,術後QOLを考えると,まずは試みられるべき術式である1077, 1078).その際,生体糊や外科用接着剤で閉鎖する術式