p.95 抽出テキスト
観察を行い,径拡大や症状発現時に血管内治療を考慮する.画像診断は,当初3年間は半年ごとに施行することが推奨されている.解剖学的に血管内治療が困難であれば人工血管置換術となるが,いずれにしても術中の塞栓症のリスクは高く,急性期PAUの手術死亡率は血管内治療で7%,人工血管置換術で16%と報告されている.また,本症では全身の動脈硬化性疾患により生命予後は不良で,非手術症例でも5年生存率は65%と報告されている1037). 1.4 外傷性大動脈損傷 1.4.1 定義と疫学 鈍的な外傷性胸部大動脈損傷は,交通事故や転落に伴う正面または側面からの突然の衝撃,または体幹移動の急激な減速によって発症することが多い.大動脈局所のねじれ現象やずり応力の集中が生じやすい部位は,動脈管索近傍,大動脈基部,横隔膜近傍である.この外傷性大動脈損傷の約9割は,いわゆる大動脈峡部近傍に生じる1038).損傷の程度により病理形態は,内膜裂開,壁内血腫,仮性瘤,破裂に分かれる. 1.4.2 症状と診断法 発症様式は背部痛,特に肩甲骨間の痛みである.しかしながら,多発外傷を伴っている場合が多いため,他の臓器損傷による痛みにより胸部症状が非特異的となる場合も少なくない.破裂をきたした場合,低血圧やショック状態に 陥る場合もある.診断の精度は造影CT検査がきわめて高い.したがって,胸部X線写真上での縦隔陰影の拡大や左側血胸の所見が得られた場合や,多発骨折などの多発外傷の身体所見がみられた際には,外傷性胸部大動脈損傷の併発を考慮して造影CT検査を考慮する. 1.4.3 治療適応 治療介入のタイミングについてはいまだ議論が分かれている領域である.大動脈が破裂するのは外傷受傷後24時間以内であることが多いという観察に基づいて,かつては常に緊急手術が必要と考えられていた.しかしながら,骨盤骨折に伴う出血持続症例や頭部外傷に伴う意識障害が遷延した患者などにおいて,ある程度の観察期間を設けた症例の経験蓄積によって,緊急手術を回避しての準緊急手術や亜急性期における治療介入の有用性も認識され,比較的安全にdelayed repairを実施しうる症例があることも事実である.外傷外科領域の大規模な前向き研究やガイドラインでも,死亡率やSCIの低減の観点からdelayed repairの有用性が示唆されている1039, 1040).しかしながら,画像所見などに基づき大動脈破裂のリスクが高いことが疑われる症例では,delayed repairを考慮すべきではないとされている. 図60 PAU(穿通性動脈硬化性潰瘍)の進展様式(Stanson AW, et al. 1986 33)より) Copyright (1986) Annals of Vascular Surgery, Inc., with permission from Elsevier. https://www.sciencedirect.com/journal/annals-ofvascular-surgery プラークの潰瘍化 粥状硬化内膜の潰瘍 内膜プラークの潰瘍中膜の血腫外膜の仮性動脈瘤貫壁性の断裂 内膜中膜外膜 大動脈粥状硬化