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p.94 抽出テキスト

1.2 intramural hematoma(IMH)

1.2.1 概念と経緯

intramural hematoma(IMH,壁内血腫)は,大動脈中膜内に出血し血腫が形成された病態である.本来は,病理学的診断として「解離内膜に亀裂を認めないもの」1033, 1034)であり,古典的にはvasa vasorumの破綻を原因とするものとされているが,欧米を中心に臨床で画像上「tearが描出されず,偽腔形態が三日月状で造影効果を認めないもの」1035)がIMHと診断されている.したがって,tearがあっても画像診断で描出されず,偽腔に造影剤の流入がなければ,IMHと診断される.欧米では単回のCT検査で,しかも造影遅延相の撮像なしにIMHと診断することが多いためか,古典的大動脈解離に進展する率が高く,内科治療の成績は不良である60).

一方,本邦や韓国では,軽症例での高い発見率や初期診断の厳格さ,また経過を追ってCT検査を行うこともあり,内科治療の成績は良好である.このような曖昧性のため,本ガイドライン2011年改訂版では,あえて「誤った病態の理解に進む可能性があるIMHという診断名は本邦では臨床的に用いない」として,「偽腔閉塞型」という用語の使用を推奨し,さらに,小さなtearの痕跡を認める症例には「ULP型」との用語を用いた1).しかしながら欧米では, IMHは本邦の偽腔閉塞型やULP型をも含んだ病態を意味する用語として普及しているため,本改訂版では,日本語表記と英文表記を整理した(表4,P. 17).

1.2.2 疫学

偽腔閉塞型は,欧米では急性大動脈症候群の10~25%,アジアでは20~50%程度を占める.偽腔開存型に比し,より高齢で男性に多い傾向にある.欧米ではA型解離が30~40%,B型解離が60~70%の比率であるが95, 96),本邦ではA型解離の30~40%程度,B型解離の40~70%が偽腔閉塞型またはULP型であるとされる.解離が腹部大動脈に及ぶことは少なく,malperfusionをきたすことも少ない1036).

1.2.3 診断

画像診断に至る過程は通常の大動脈解離と同様である.

1.2.4 治療と予後

A型解離の偽腔閉塞型(+ULP型)の場合,欧米では再開通率がきわめて高く予後不良であるため,手術適応とされる.しかながら,近年ではエビデンスの蓄積により,本

邦と韓国では上行大動脈径<50 mmかつ偽腔厚<11 mmの場合,厳重な管理下であれば保存的治療も可能とされている1, 96).B型解離の偽腔閉塞型では,原則として保存的治療が選択される.なお,complicated型(malperfusionまたは破裂)やULP型に対し,近年では血管内治療を積極的に行う傾向にある1036).

1.3 penetrating atherosclerotic ulcer (PAU)

1.3.1 概念

penetrating atherosclerotic ulcer(PAU,穿通性動脈硬化性潰瘍)は,penetrating aortic ulcerとの表記もみられるが,潰瘍形成をきたした動脈硬化性病変において,潰瘍の深度が内弾性板を越え中膜に達した病態である.そのまま中膜内に血腫を形成して大動脈解離と同様の病態に至ることもあれば,外弾性板を越え外膜破綻(=破裂)に至ることもある(図60) 33).解離がある程度の長さに進展しているものに関して,ULP型との鑑別は粥状硬化の程度で判断するが,重複している病態もあり困難なことも多い1037).

1.3.2 疫学

古典的解離(double barrel dissection),IMH,PAUを総称してacute aortic syndrome(急性大動脈症候群)と呼ぶが,欧米ではこのPAUは急性大動脈症候群の5%を占める.古典的解離に比し,動脈硬化危険因子を複数有する男性に多い傾向にあるが,若年者にも発症することがある.部位としては下行大動脈に多く,至る所に多発することもある96).

1.3.3 診断

無症状であれば,偶然に画像診断で発見される.急性大動脈症候群を呈すれば,画像診断に至る過程は通常の大動脈解離と同様である.下行大動脈のPAUであれば,経食道エコー検査でも診断可能である.前述のごとく,典型的には粥状硬化の強い大動脈に限局性の中膜血腫と潰瘍状の血流腔を認める.PAUは破裂のリスクが高いので,慎重に判断することが重要である.

1.3.4 治療と予後

急性期に症状が持続する症例は血管内治療のよい適応となるが,重症の動脈硬化のためアクセスに問題があることが多い.それ以外では厳格な基礎疾患管理のもとに経過