p.90 抽出テキスト
の外側周囲組織に硝子化を伴う線維化が広範囲にみられ,リンパ球やマクロファージを中心とした非特異的な慢性炎症細胞が,リンパ瀘胞の形成を伴いながら層状に浸潤する977).それにより線維化と炎症細胞が交互に存在する構造を呈し,本疾患の特徴的な組織像となっている.一方,中膜より内腔側の組織は通常のAAAと同様の変化を示す.すなわち,中膜は著明に菲薄化し,それを被覆するように粥状硬化が生じる.中膜がほとんど消失する場合もある.炎症性AAAとAAAの関連についてはいまだ不明な点が多いが,AAAにおいても外膜に炎症細胞浸潤が認められることがあること980),リンパ球の亜集団にも大きな違いがみられないこと981),両者ともに同様の危険因子をもっていることなど,両者を明確に区別することはできない.遺伝的な要因982)に加え,喫煙983)やヘルペス・サイトメガロウイルス感染984)などの因子により,炎症がより強く発現されたものが炎症性AAAではないかという見方もある985).巨細胞性動脈炎や高安動脈炎などの大型血管炎に合併するとの報告もある986).また近年では,IgG4関連疾患との合併が注目されているが,炎症性大動脈瘤の約半数は病理組織学的にIgG4陽性であると報告されている969). 2.5.2 有病率 欧米で本症の報告は散見され,その有病率は4~15%である987–989).本邦での報告990, 991)によると,エコー検査所見上での有病率は4.9%,手術例での検討では3%で,欧米に比して若干低率である.男女比は30:1~6:1までさまざまであるが,男性に好発し,年齢層は動脈硬化性のAAAと比較して5~10歳ほど若い985). 2.5.3 臨床症状 臨床症状は腹痛・腰痛・腹部不快感,体重減少,赤血球沈降速度亢進・CRP高値,などの炎症に由来すると思われる3症状が典型的である.また,合併症としては,瘤壁の肥厚が尿管を巻き込み992),水腎症を生じて腎不全となり,乏尿や浮腫が生じることもある.まれではあるが,消化管を巻き込んで消化管の通過障害や破裂などをきたすこともある. 2.5.4 診断 前記の臨床症状を有するAAAでは本疾患を疑う.血液検査では赤血球沈降速度の亢進やCRP高値などが高率にみられるが,細菌感染を示唆する白血球増多や培養陽性などは認めない.また,IgG4関連疾患の関与をみるためには血清IgG4の測定が有用である969).診断には画像所見が重要であり,エコー検査とCT検査が有用である.エコー検査では腹部瘤周囲の肥厚所見(mantle sign:瘤 の前方または前側方の低エコー域)が特徴的である.造影CT検査では,単純CTで低CT値であった瘤周囲部が造影され,周囲と明瞭に区別できるようになる(図24,P. 34).肥厚が高度な例では,尿管や消化管,下大静脈や腎静脈などの周囲臓器の巻き込みがみられることがあり,手術時における腸管や尿管の損傷などの合併症予防のためにも,本症の診断は重要である.FDG-PET検査は,大動脈壁や周囲の活動性炎症の検出に有用である993–995).炎症部位はFDG集積亢進として検出され,炎症性大動脈疾患の検出感度83~100%,特異度77~100%と報告されている993). 感染性大動脈瘤との鑑別は,典型的なCT所見と血液培養陰性,ツベルクリン反応陰性,梅毒陰性などの所見で可能である. 2.5.5 治療 大動脈瘤自体の治療のみならず,合併する瘤周囲の線維性肥厚に伴う諸器官の通過障害に対する処置や予防が必要である.手術適応にならない小さな大動脈瘤で,疼痛や体重減少,水腎症を伴う場合は,炎症改善のためステロイド薬投与を考慮する.推奨される投与量や投薬期間は定まっていない.ステロイド薬不応例では免疫抑制薬や抗エストロゲン薬が有用であったとの報告もある971–973). 通常のAAAの適応に準じて,男性55 mm,女性50 mm以上が手術適応とされているが,脳血管障害,冠動脈疾患,呼吸器障害,腎障害などの全身の合併症との関連で決定される.炎症により大動脈と十二指腸が高度に癒着していることが多く,外科手術を行う場合は十二指腸の損傷を避けるために後腹膜アプローチが推奨される996).近年, EVARによる治療が行われ,瘤縮小やCT上のmantle signも改善されたと報告され,その有用性が示唆されている976).ただ,炎症や癒着が強い例ではステントグラフト脚のキンクや狭窄を生じたとの報告があり,注意が必要である.また,IgG4陽性の炎症性AAAはEVAR後に大動脈周囲線維化の増悪や瘤径拡大が生じやすいとの報告もある970).手術後は水腎症などの通過障害も改善されることが多いが,特にEVAR後は炎症が残存することも少なくなく,尿管カテーテル留置やステロイド・免疫抑制薬投与も考慮すべきである. 2.5.6 転帰,予後 自然予後は不明である.外科手術を行った場合,広範な癒着のために周術期合併症と死亡率が通常のAAAと比較して3倍高かったという報告もある974).外科手術とEVARを比較した総説では1年後の全死亡率が外科手術14%に対