p.86 抽出テキスト
2.3 腹部大動脈瘤破裂 表28 腹部大動脈瘤破裂の治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 解剖学的要件を満たしていれば,EVARを第一選択とする321, 922–925). I B侵襲的治療後には膀胱内圧を測定し,腹部コンパートメント症候群が発生していればすみやかに開腹減圧手術を行う321, 922, 926–928). I B侵襲的治療後,心血管リスクを評価し,管理する321, 856, 929). I B侵襲的治療の際に,循環動態が不安定な場合,可及的すみやかに大動脈閉塞バルーンによる大動脈遮断を考慮する321, 930). IIa B AAA破裂は依然として致死率の高い疾患であるが,近年の診療体制の整備やAAA破裂特有の周術期管理の進歩により,救命率が少しずつ改善されてきている931).加えて近年,AAA破裂に対するステントグラフト内挿術(EVAR)の成績が外科手術と同等かそれ以上に良好であるとするエビデンスが蓄積され,本ガイドラインを含め世界のガイドラインが大幅に変更されている321, 922). 2.3.1 疫学 本邦におけるAAA破裂は,National Clinical Database (NCD)登録が始まった2011年から2014年までの間,侵襲的治療に至ったものだけで年間平均1600例程度が登録され,AAA手術全体の約10%を占めている515, 932–934).一方,スウェーデンでのAAA破裂の発生率(剖検例と非侵襲的治療例を含む)は,2000~2004年の集計で10万人年あたり10.6人とされ,65~94歳の男性がその7割以上を占めると報告されている935). 2.3.2 診断 突然の腹痛・背部痛,血圧低下,腹部拍動性腫瘤は古典的なAAA破裂の3徴であるが,3 つ揃うのは全体の約50%であり321),3つ揃わなくてもAAA破裂を疑う.AAA破裂が疑われる患者において,循環動態が安定していれば迅速なCT検査が推奨されるが321, 922),血行動態が不安定で手術室に直行しなければならない場合は,手術室でエコー検査などの画像診断を行って,EVARの可能性を検討する321). 2.3.3 診療体制 救命率を上げるためには,破裂プロトコールが確立され,デバイスが整っていて,血管内治療も選択可能な施設を選択すべきであり,病院間連携の確立と搬送中の患者管理プロトコール確立が重要である922).意識のある患者においては輸液を制限した低血圧管理(目標収縮期血圧は70~90 mmHg)を推奨する321, 922). 2.3.4 麻酔 AAA破裂に対してEVARを選択する場合,局所麻酔の選択を考慮すべきであり,局所麻酔で実施可能であることがEVARの大きな利点でもある321).外科手術の場合,全身麻酔導入時にしばしば突然の低血圧を起こすため,麻酔導入前に外科医が手洗いをして,消毒・覆布がけ・ドレーピングを終えてから麻酔導入を行う321). 2.3.5 大動脈遮断 循環動態が不安定な場合,EVARではもちろん,外科手術においても大動脈遮断用バルーンの使用が推奨される321, 930, 936). 2.3.6 治療法選択 EVARと外科手術のいずれも選択可能ではあるが,以下の3 つの理由により,解剖学的にEVARに適していればEVARが第一選択として推奨されてきている321, 922). IMPROVE 923, 924, 937),AJAX 938),ECAR 939)の3つのRCTの結果,AAA破裂に対するEVAR群の成績は外科手術群と同等以上であった925).また,IMPROVE試験において,手術死亡率はEVAR群35.4%,外科手術群37.4%と有意差はなかったが,EVAR群で有意に入院期間が短く,自宅退院率が高かった937).さらに,1年後の生存率には差がなかったが,EVAR群で有意にQOLが高く923),3年後では外科手術群に比べEVAR群で生存率が高く,費用面でも優れていた924).大規模なメディケア研究では,propensity score matching後の周術期死亡率が,EVAR 33.8%に対して外科手術47.7%(P<0.001)で,早期生存でも優位性が示された940).メタ解析では,循環動態不安定に対するAAA破裂の死亡率は,EVAR 37%に対して外科手術で62%(P=0.009)であった941).EVARの急性期と遠隔期の成績が外科手術と同等かそれ以上であれば,侵襲度の低いEVARが優先され,欧米のガイドライン321, 922)も一致してEVARを第一選択として推奨している.本邦においても欧米と同様,AAA破裂に対するEVARの選択が年々増加しており,2014年時点でAAA破裂の31%にEVARが選択