p.80 抽出テキスト
動脈瘤,術者の経験,などがある810–814).多数の手術を行っている専門施設でのAAAの待機的手術の成績は良好で,手術死亡率は1~5%と報告されており,本邦では1%以下との報告も多い.専門施設に限定しない場合,手術死亡率は4~8%と高くなる812–816).したがって,ESVSのガイドラインでは年間症例が30例以上の施設での手術治療が推奨されている321, 816). c. 冠動脈疾患の評価 AAAに対する開腹手術はACC/AHA 322)とECSのガイドライン321, 323)では高リスク手術に分類されているが,術前,全例に冠動脈造影などの侵襲的精査を行うことは推奨されない.心血管疾患が安定している患者では術前の心血管リスクを点数化することで,臨床的重症度を低リスク群,中間リスク群,高リスク群に分類する315, 320, 322, 323, 817).低リスク群ではさらなる精査は必須ではない.一方,運動耐容能が低い(4 METs未満)患者や有症状の心血管疾患(不安定狭心症,非代償性心不全,重度の弁膜症,不整脈など)を有する患者では,術前に精査と治療を行う必要がある. 術前からのスタチン投与開始によって血管手術後の心血管イベントの発生が抑制されると報告されており,スタチンの追加投与は推奨される315, 321, 818, 819).一方,術前からのβ 遮断薬の新規投与に関しては,複数のRCTの結果,脳血管障害と死亡率が悪化することが示され,有用性は否定された820–823).心疾患コントロールのために術前にβ 遮断薬を開始する場合は,手術までに十分な期間をおくべきである. 冠動脈狭窄例に術前に冠血行再建を行うかどうかについては議論がある.心症状が安定している患者では術前の予防的冠血行再建は必ずしも推奨されない.一方,左主幹部に50%以上の狭窄病変,LVEFが20%以下の左室不全,高度の大動脈弁狭窄などを合併していない安定した冠動脈病変の患者では,術前に冠動脈血行再建を行っても,周術期の急性心筋梗塞と遠隔期死亡は減少しなかった326, 823)との報告がある.ただ,ともに15年前の海外からの報告であり,むしろ本邦において盛んに施行されている冠動脈カテーテル治療(PCI)や非体外循環下冠動脈バイパス術(OPCAB)の著しい進歩の中では多少状況が異なること,また,AAA治療も手術だけではなくEVARの選択肢ができたことなどを十分に考慮したうえで,症例ごと,施設ごとに最適の治療選択がなされることが望まれる. 2.2.3 外科手術の術式 表26 非破裂性腹部大動脈瘤の外科手術術式の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 少なくとも一側の内腸骨動脈血流を温存する824–826). I C腹腔動脈や上腸間膜動脈に狭窄性病変を認める,下腸間膜動脈からの拡張した側副血行路を認める,結腸切除の既往がある,内腸骨動脈が温存できないなどの場合,下腸間膜動脈の再建を考慮する315, 320–323, 817). IIa C a. アプローチ AAAに至る方法には,経腹膜経路と後腹膜経路がある.経腹膜経路は素早く広い視野が得られ,腹腔内臓器の検索ができるという長所があるが,術後腸管運動の回復が遅れる傾向がある.後腹膜経路は複数の開腹術,腹膜炎,腹部臓器放射線照射などの既往をもつ「hostile abdomen」の患者や,傍腎動脈瘤,炎症性動脈瘤などの腎動脈分岐上部大動脈の遮断が必要な患者に対して,左腎を右側に脱転する操作が可能なため,有効な到達法とされる315).最近はEVARが行われるようになり,外科手術の対象が変化して,解剖学的にEVARに適さない瘤を対象とすることが多くなってきため,症例ごとに適した到達法を選択することが重要である. b. 大動脈遮断 大動脈遮断部位の壁の石灰化,粥腫の状況を術前にCTで評価しておく必要がある.腎動脈下大動脈で遮断ができない場合は,腹腔動脈上部を含めた腎動脈上部大動脈の遮断が必要となる.腎動脈上部大動脈遮断で腎機能低下や合併症が増加する可能性はあるが,症例数の多い専門施設であれば手術死亡率は腎動脈下大動脈遮断の場合と変わらないとする報告もある326, 827–829). c. 人工血管の選択 人工血管の種類による合併症の差はなく,選択は術者の好みでよい.直型グラフトか分枝付きグラフトかの選択は腸骨動脈の拡張状況により判断する.また,リファンピシン浸漬は,人工血管感染の予防効果を期待して,感染性AAAや人工血管感染後に使用されているが,支持する明確なエビデンスはない828, 830). d. 骨盤血流維持 AAA手術では下腸間膜動脈,内腸骨動脈の血流が阻害され,虚血性大腸炎,臀筋跛行,性機能障害,SCIの問題が生じる場合があるが,その発生は複数の因子に影響さ