p.77 抽出テキスト
大を抑制したというエビデンスはない.一方,喫煙はAAAの拡大・破裂の重大な危険因子であり,禁煙指導は内科治療の重要な一部である.また,AAA患者は心血管イベントのリスクが高く,AAAに対する外科手術後における主要な晩期死亡原因は,心疾患,肺癌,肺疾患の順である768).AAAの外科手術症例の長期予後調査では,死因の約4割が心血管関連であり,22%が心筋梗塞と報告されている317).腎動脈下AAA患者に対する待機的外科手術の術前に冠動脈造影を施行したところ,半数以上が冠動脈疾患を合併していたとの報告があり769),負荷心筋SPECT施行にて冠動脈虚血の存在を評価した研究においては, AAA症例の37%に心筋虚血を認め,末梢動脈疾患合併例でより高くなる(77%)との報告がある770).以上より, AAA患者では発症リスクの高い心血管疾患に対するリスク低下を目標に,動脈硬化危険因子に対する管理と動脈硬化性疾患のスクリーニングを厳格に施行する必要がある. 2.1.1 血圧目標値 AAAにおいてはエビデンスのある血圧目標値は存在しないが,TAAと同様に130/80 mmHg未満とするのが望ましい. 2.1.2 薬物療法 a. β遮断薬 プロプラノロールに関するRCTの結果によると,AAAの拡大速度を低下させることができなかった上に,患者のQOLも低下させたことが報告されている290).しかしながら,慢性心不全や冠動脈疾患といった併存疾患によってはβ 遮断薬がAAA患者にとって有用なケースも考えられるため,症例ごとに検討する. b. ACE阻害薬,ARB 大規模な一般住民対象の症例対照研究で,ACE阻害薬は破裂予防において有益性が示唆された(オッズ比0.82, 95%CI 0.74~0.90) 771).しかし,最近報告された2つの研究では相反する結果が示されている.UK Small Aneurysm Trial 772)においてはACE阻害薬の使用がAAA拡大と関連していたが,Chichester研究773)ではARBとアルドステロン拮抗薬に拡大速度を抑制する効果が示唆された. AAA患者に対するACE阻害薬とCa拮抗薬のRCTでは動脈瘤拡大への影響に有意差はなく,ACE阻害薬の優位性は示されなかった774).以上より,ARB/ACE阻害薬もまたAAAの拡大抑制に明らかな有効性は認めず,併存疾患により症例ごとに検討する必要がある. c. その他の降圧薬 降圧利尿薬やCa拮抗薬,ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬などの降圧薬に関しては大動脈瘤拡大抑制の十分なエ ビデンスがない.Ca拮抗薬に関しては,有意差はないものの大動脈瘤拡大を抑制する傾向を示した報告がある305). d. スタチン AAAの拡大・破裂をスタチンが予防することを明確に示したRCTはなく,後ろ向き研究でもその関連は示されなかった772, 774).しかしながら,近年行われた大規模なメタ解析の結果,スタチンはAAA拡大・破裂を抑制し,AAAに対する手術の周術期リスクを下げる因子となる可能性が示唆され,動脈硬化を背景とした心血管イベントの発症抑制効果も報告されており766),AAA患者への投与は推奨される. e. 抗血小板薬 AAA患者への抗血小板薬投与により,5年生存率が改善されたとの報告もあるため,動脈硬化性疾患を合併するAAA患者において抗血小板薬の投与を考慮する. 2.1.3 安静度,運動,禁煙 喫煙は大動脈瘤の拡大速度を20~25%上昇させるともいわれ,逆に禁煙により大動脈瘤拡大のリスクは低下する271, 272, 761, 762).喫煙者のAAA破裂あるいは破裂による死亡の率は,非喫煙者や禁煙者より高いことが確認されている763, 764).最大短径30 mmを超えるAAA患者15,475例のデータを用いた最近のメタ解析では,現在の喫煙は拡大速度の0.35 mm/年の上昇と関連しており,これは喫煙の既往または非喫煙者における拡大速度の2倍である311).同様に,一般住民対象の研究からのデータは,喫煙が大動脈瘤の転帰の最も重要な予測因子であることも示されている273). 食事介入または運動処方のAAA拡大に対する有用性は示されていないが,どちらも動脈硬化性疾患のリスクが高いAAA患者において必要な指導である.最大短径55 mm未満のAAA患者140例を対象とした最近の試験では,3年間にわたる職場と家庭でのトレーニングにより,通常の治療群に比較し大動脈瘤の拡大率に差はなかったが,心肺機能の改善が認められた775).ただし,激しいアイソメトリックストレーニングは推奨されない. 2.1.4 内科治療の限界の見極め 内科治療の限界とはAAAの破裂の可能性が高まる時期といえる.具体的には,十分な降圧治療,禁煙指導,脂質管理を行ったうえで下記のリスク評価を行い,次項目に示す侵襲的治療介入の適応に達した場合には集学的治療介入が可能な医療機関での治療方針の検討が必要である. a. 腹部大動脈瘤のリスク評価 AAAの破裂リスクの評価は,大動脈瘤の径と拡大速度,瘤の形状,疫学的因子で評価する.