p.74 抽出テキスト
1.3.3 下行・胸腹部大動脈瘤 a. 下行大動脈瘤の外科手術 下行大動脈瘤の破裂は致死率が高い.下行大動脈瘤破裂は侵襲的治療によってのみ治療が可能であるが,多くの患者は,治療を受ける前に出血により死亡するか,治療を受けても生き延びることができない.また,耐術生存しても,多臓器不全や脳・脊髄障害のリスクが伴う.下行大動脈瘤破裂224症例を対象としたメタ解析では,外科手術(人工血管置換術)後の30日死亡率が33%であり352),主な合併症である心筋梗塞,脳卒中,対麻痺はそれぞれ11.1%,10.2%,5.5%であった.同じ著者による下行大動脈瘤破裂69症例の後ろ向き多施設研究では,死亡,脳卒中,対麻痺を合わせると36.2%であった349).また,米国大規模データベースNational Inpatient Sample(NIS)を用いたより大きな研究の結果では,下行大動脈瘤破裂559症例の死亡率は28.6%であった351).これらのデータは,下行大動脈瘤破裂の治療としての外科手術が高い死亡率と罹患率に関連していることを示唆している. 胸部下行大動脈瘤破裂症例では,肺との癒着もあり大動脈遮断まで時間を要することが多く,その間に循環が破綻する.そのため手術室まで患者を搬入できたら左開胸前に直ちに大腿動静脈経由で体外循環を確立する.AAAと違って破裂部位によってはバルーンでの遮断が困難なので,循環が落ち着いていても,いつ循環破綻するかは予測できず,できるだけ早期に大動脈遮断が必要である.CT検査で破裂部位を同定できていれば,胸膜を切除し,破裂部位から距離のある大動脈を露出して遮断することは可能である. 一方,後述するように,近年,破裂を含め下行大動脈病変に対して,TEVARが外科手術に代わる手技として行われるようになっており,TEVARにより死亡率と合併症発症率の低下が示唆されている349, 351, 352).しかし,米国の入院患者サンプルデータを用いた研究では,TEVARは外科手術と比較して死亡率に有意差はなく,対照的な結果であった(23.4%対28.9%,P=0.064) 351). また,食道癌あるいは肺癌の下行大動脈浸潤に起因する下行大動脈瘤破裂に対してTEVARの有効性が報告されており732–734),治療の選択肢の一つとなっている. b. 胸腹部大動脈瘤の外科手術 TAAAの破裂も致死率が高い.外科手術のまとまった論文は少なく,2016年のESVSのガイドラインでもTAAA破裂の外科手術についてのコメントは存在しない.1990年代の米国での手術死亡率は53.8% 735)と報告されていたが,最近は破裂症例でも脳脊髄液ドレナージ,肋間動脈再建,付随手術などを省いてシンプルにすることで手術死亡率は 14%まで改善されている736).下行大動脈瘤破裂時と同様に,TAAAの破裂症例をTEVARで治療する施設が増えているが,下行大動脈瘤ほど簡単ではなく,National Surgical Quality Improvement Program(NSQIP)のデータベースを用いた研究では,TAAA破裂206例(外科手術144例, TEVAR 62例)を比較したところ,術後の腎不全(32%対13%,P=0.004),呼吸不全(58%対37%,P=0.007)ではTEVARが優っていたが,死亡率には有意差はなかった(38%対26%,P=0.09)と報告されている737). c. 下行・胸腹部大動脈瘤の血管内治療表21 下行大動脈瘤破裂の血管内治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 解剖学的要件を満たせばTEVAR を第一選択とする349).(表9,P. 54 を参照) I C TEVARと外科手術を比較したRCTはないが,近年,明らかにTEVARによる治療率が増加している349, 738–740).メタ解析,後ろ向き研究においてもTEVARにより低い死亡率と合併症発症率が得られており349, 352),胸部下行大動脈瘤破裂に対しては,解剖学的要件を満たせばTEVARが第一選択となる.しかしながら,TEVARでは死亡を含む遠隔期大動脈関連イベントの発生率が高く,遠隔期予後の面で外科手術に対する優位性は示されていない352, 738). 破裂に対する緊急症例の38%で,十分な中枢側landing zoneを確保するためにはステントグラフト(SG)内挿に伴う左鎖骨下動脈起始部の閉塞が必要であるが,そのほとんどで鎖骨下動脈の再建はなされていない352).左鎖骨下動脈の再建が不要であるというデータはなく,少なくとも冠動脈に吻合され開存している左内胸動脈がある場合や,左椎骨動脈が明らかに左優位である場合には,再建することが推奨される.それ以外であれば,緊急下でのSG内挿に伴う左鎖骨下動脈起始部カバーは許容される689, 729).同様に,緊急性があれば,SGによる腹腔動脈(CA)起始部カバーは許容される.待機的TEVARと同様にCAをバルーン閉塞し,上腸間膜動脈の造影検査により側副血行を確認すべきであるが,上腸間膜動脈からCA領域への側腹血行が確認できたにもかかわらず,実際のSGによるCA起始部閉塞後にCA領域の虚血性合併症が発生している532).可能であれば,小径SGを用いたパラレルまたはペリスコープなどの手技や741),自作開窓型SGなどにより,CAの血流を確保する. 腹部分枝の再建を必要とするTAAA破裂に対し完全血管内治療を行うには,開窓型SGまたは分枝付きSGを用