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p.73 抽出テキスト

バ洞に及ぼすストレスが遠隔期にどのように影響するかは不明であるため,原則として体外循環を用いた手術を回避すべき患者に限定した使用が安全と考えられる724).

大動脈弁輪拡張症は,Marfan症候群などの遺伝性結合織疾患で認められることが多い.解離の発症を経た後の破裂に比べ,非解離の状態から破裂に至る可能性は少ない725).大動脈弁閉鎖不全症の有無にかかわらず,大動脈基部置換術またはVSRRが選択される.術式の詳細は本章の「1.2.1. 大動脈基部・上行大動脈瘤」(P. 63~)を参照されたい. ii. 上行大動脈

上行大動脈置換術が第一選択である.破裂孔が基部に近い場合は,体外循環の確立後に大動脈遮断下での置換が可能である.弓部側に破裂孔が存在する場合には,体外循環確立後に破裂部を用手的に閉鎖しながら冷却し,超低体温循環停止下に破裂孔を含む末梢側大動脈の置換を先行することが必要となる場合がある. iii. 弓部大動脈

全弓部置換術あるいは部分弓部置換術が基本となる.破裂部位により心嚢内,縦隔または胸腔内に出血をきたすが,破裂部は容易に確認できないことがある.遠位弓部周辺に高度な石灰化を有する症例,あるいは下行大動脈に瘤化病変が広範囲に進展している症例など,正中切開のみで末梢側大動脈吻合が困難な症例では,正中切開に左側開胸を加えたアプローチ(trapdoor開胸法,ドアオープン法など),左側開胸,あるいは左側開胸に胸骨横断と右側開胸を加えたアプローチ(clamshell法)で全弓部または部分弓部置換術を行う方法もある.

しかし,これらのアプローチは開胸に至るまでに時間を要することが,迅速な対応が要求される破裂例においては問題となる.そこで,正中切開のみで,破裂部より中枢側の上行大動脈や上行および近位弓部大動脈を開放し,末梢の破裂部を含む瘤化部分にステントグラフト(SG)を留置する方法(オープンステントグラフト法,またはfrozen elephant trunk法)も破裂症例で応用され,比較的良好な成績が報告されている726).

また,頚部分枝へのバイパスを開胸または非開胸下に行った後にTEVARを行う方法,開窓型(SG)を用いた方法,chimney法を用いた方法などの報告715)も存在するが,弓部大動脈瘤に関するESCのガイドライン96)では,「anatomy is favorable and the expertise available」である場合にTEVARを適用するべきとされている.この場合,合併症として逆行性A型解離の発生率が高いことが問題となる727). f. 外科手術の成績

2015年と2016年を対象期間としたJCVSDに基づく報告711)では,非解離性TAA破裂に対する外科手術の早期死亡率(30日死亡と院内死亡)は,基部20.0%,上行18.1%,基部から弓部50.0%,弓部20.1%であった(表19).基部から弓部にかけての非解離性TAA破裂に対する手術症例の遠隔期成績について調査された報告は存在しない.また,早期死亡に関連する危険因子について解析された報告も現時点で存在しない.

1.3.2 弓部大動脈瘤

表20 弓部大動脈瘤破裂の血管内治療の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

弓部大動脈瘤破裂に対しハイブリッドTEVAR を考慮する710, 715). IIa C

下行大動脈瘤破裂に対するTEVARと外科手術(人工血管置換術)を比較した報告では,30日死亡率はTEVAR群17%対 外科手術群24%,4年生存率は75%対64%と, TEVARで良好な成績が得られている349).したがって,下行大動脈瘤破裂に対してもTEVARが推奨される352, 728, 729).一方,弓部大動脈瘤に対するTEVARは,屈曲部への留置による術後エンドリークの懸念,頚部分枝の血流確保という観点から,通常のTEVARのみでは対処できない.このため弓部大動脈瘤治療の第一選択は外科手術であり,高齢あるいは外科手術のリスクが高い症例に対してTEVARが考慮される.

高リスク患者に対してのTEVARは良好な成績が報告されている710, 730).弓部大動脈瘤へTEVARを行う場合,landing zoneの確保のために頚部分枝に非解剖学的な経路でバイパス血行再建を施行した後,ステントグラフトを挿入するハイブリッドTEVARや,ステントグラフトを挿入して開窓するin situ開窓術などの完全血管内治療が行われる(本章の「1.2.2.-b. 血管内治療」P. 65を参照).

ハイブリッドTEVARや完全血管内治療は開胸の必要がないため,低侵襲であり,外科手術と比較しても成功率,死亡率ともに遜色なく,弓部大動脈瘤破裂症例に対し選択肢となりうる715, 731).ただし,現時点で弓部大動脈瘤破裂に対するTEVARの成績を示した論文は,いくつかの小規模検討と症例報告のみである.