p.70 抽出テキスト
工肺使用の有無にあり,したがってヘパリン使用量が異なってくる.その点で2を好む術者もいるが,前者においてもheparin-coatingまたはX-coating回路が開発され,理論上は閉鎖回路であれば同程度のヘパリン量ですむ.一方,弓部近傍の中枢側遮断困難例,再手術による剥離困難例,大動脈解離例などに対しては,大腿静脈吸引脱血または主肺動脈脱血追加併用の完全体外循環下の低体温循環停止法による大動脈開放下血管吻合法が用いられる667, 668). v. 腹部臓器保護 腹腔動脈と上腸間膜動脈は血液灌流で,両腎動脈は冷却晶質輸液(乳酸リンゲル液など)の注入か,または血液灌流を行うことにより,内臓器虚血を減少させる650).部分体外循環や左心バイパス回路の側枝から,バルーン付きカニューラを用いて各腹部分枝動脈の選択的持続灌流を行う.定説はないが,1分枝につき流量150~200 mL/minが目安とされている.順行性上腸間膜動脈灌流にもかかわらず粘膜損傷が発生する可能性があり,炎症反応の誘発に注意する669). vi. 脊髄保護法(第7章の「2. 脊髄保護」P. 127~も参照) 虚血性SCI発症の危険因子には長時間の大動脈遮断,広範囲の大動脈瘤,大動脈解離,緊急手術,内腸骨動脈非再建,および腹部大動脈手術の既往が含まれる.SCIを予防する手段として,遠位側大動脈灌流,肋間動脈再建651),肋間動脈灌流,脳脊髄液ドレナージ(CSFD) 651–653),脊髄冷却670),および周術期の脊髄機能評価671)などがある.最近の2つのレビューで,SCI予防のために利用可能なすべての戦略がまとめられている651, 653). 本邦では,可能であれば術前にMR検査やCT検査などの非侵襲的血管造影検査により,Adamkiewicz動脈とそれにつながる肋間・腰動脈または側副血行路を同定し,術中の肋間動脈再建,温存の手掛かりとすることが一般的である672).術前日ないしは当日にCSFDチューブを挿入し,術中から術後3日間の継続使用が行われ,その有用性が証明されている653).術中は,運動性脊髄誘発電位や体性知覚電位により脊髄虚血をモニタリングする654, 673, 674).術前同定検査や術中脊髄虚血モニタリングを参考にしながら,必要であれば責任肋間・腰動脈を再建する.CSFD,適切な血圧の維持,遠位側大動脈灌流の使用,および肋間動脈の血行再建を含む多様式アプローチは,脊髄虚血のリスクを軽減するのに効果的である675). vii. 成績 TAAAの外科手術の結果に関する論文の大多数は,高度に専門化されたハイボリュームセンターからのシリーズに由来する646, 660, 671).これらの経験豊富な施設は,術後の死亡率を5~15%の間で報告している.主な合併症は呼吸不全(最大60%),神経学的障害(3~18%),および腎不 全(3~15%)である.高度に専門化された施設以外では死亡率と合併症発生率がこれらのほぼ2倍になる.米国のカリフォルニア州全体のデータベースでは,TAAAの外科手術後の30日死亡率と1年後死亡率は,それぞれ19%と31%であった675).これらの結果は,TAAAの外科手術のような複雑な手術は専門センターでの施行が望まれ,実際には十分なスタッフサポート,および病院規模と外科医の数が術後生存率に大きく影響することを示している.また,手術経験が少ないことが術後死亡率の上昇と相関することを明らかにした報告もある655).すなわち,TAAAの手術を受けた患者1542症例において,症例が少ない病院(27.4%)と症例が多い病院(15%)との間に,死亡率の有意差(P< 0.001)が認められた.また,外科医が少数の病院(25.6%)は外科医が多数いる病院(11.0%)と比較して死亡率が有意に(P<0.001)高かった.これらの症例数と転帰の関係(volume-outcome relationship)はシステマティックレビューにまとめられている656). c. 下行大動脈瘤の血管内治療表17 非破裂性下行大動脈瘤の血管内治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 解剖学的要件を満たせばTEVAR を施行する360–365, 676―678).(表9,P. 54 を参照) I C下行大動脈瘤に対する外科手術とTEVAR間のRCTによるエビデンスはいまだ得られていないが,文献上は早期死亡率,合併症発生率,入院期間などにおいてTEVARの結果が優れている360–365, 676, 677).5年までの遠隔期死亡率においては差がみられず362),下行大動脈の直線部分に対するTEVARではエンドリークはそれほど多くみられないことから(3.9~15.0%),解剖学的要件を満たす下行大動脈瘤に対しては,Marfan症候群などの遺伝性結合織疾患を除いて,TEVARが推奨される678).また,TEVARは,外科手術に比べSCIの発生率が低く(2.8~21.0%) 363, 676, 678–680),しか も遅発性SCIが特徴であり,不全麻痺が多く,回復も比較的早い.ステントグラフトによるカバー領域が200 mm以上,T8~T12レベルをカバー,AAA置換術後,内腸骨動脈閉塞,左鎖骨下動脈閉塞などがSCIの解剖学的危険因子である.慢性腎機能障害,周術期の低血圧(平均<70 mmHg)もSCIの発生につながる678, 679, 681, 682).このような場合は,SCI予防として脳脊髄液ドレナージを行う.現行のデバイスにおいては,landing部分の大動脈内径≧40 mm,landing zoneの長さ≦15 mmはTEVARの適応外である365, 683).また,瘤による圧迫症状を呈するもの(食道,