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p.68 抽出テキスト

近位側への進展を明らかにすることは重要である.通常は,第5~6肋間左開胸下に下行大動脈瘤に到達する.近位下行大動脈瘤に対しては第4~5肋間左開胸,横隔膜近傍の遠位下行大動脈瘤に対しては第7~8肋間左開胸を用いる場合もある.

術前検査には,脊髄血液供給に主要な役割を果たす肋間動脈・腰動脈と骨盤内動脈のCTA検査またはMRA検査を含めるべきである119, 639).胸部下行大動脈瘤手術に関連する死亡率と合併症のリスクを最小限に抑えるために,心機能,肺機能,腎機能,ならびに頚動脈と末梢動脈閉塞性疾患の術前評価が不可欠である.心エコー検査,心臓カテーテル検査,そして必要と判断された患者ではホルター心電図などの追加の検査は通常,冠動脈疾患(CAD)または心臓弁膜症の病歴のある患者に求められる.下行大動脈瘤に症候性CADを合併している患者では,大動脈瘤手術前にCADの治療を先行させるべきである.無症候性CADを合併する患者の治療については,非積極的な治療を示唆する最近の文献629)を考慮すると,議論の分かれるところである.このような症例においては,術前に計画された外科手術による置換範囲とCAD重症度が,術前戦略を決定するうえで重要である628).

また,喫煙歴とCOPDの存在は術後呼吸不全のリスクを増大させるため,肺機能検査と動脈血ガス分析が重要となる630).

術後腎不全のリスクは腎機能障害のある患者でより高く,そのため術前の水分補給と術中・術後の適切な腎灌流の確保によりリスクを軽減することが可能である631).

脊髄虚血や腸間膜虚血および腎虚血のリスクは大動脈遮断時間に関連している631, 632, 640, 641).大動脈遮断時の補助手段には,部分体外循環法,左心バイパス法と低体温循環停止法などが含まれる.低体温循環停止法は,破裂例や中枢側の大動脈遮断が困難な場合に役立つ642).しかしながら,連続387症例の下行大動脈瘤の後ろ向き分析では,左心バイパス法を適用しても対麻痺リスクの有意な減少はなかった640)(脊髄虚血の予防については,第7章の「2.3.脊髄保護法」P. 130~を参照).

下行大動脈瘤の待機的外科手術の結果は,過去25年間において症例の多いハイボリュームセンターで改善されてきた640, 643, 644).しかしながら,これらの許容される結果は,米国大規模データベースNational Inpatient Sample(NIS)のデータで裏づけられたものではなく,症例の多いハイボリュームセンターで達成された結果を反映している.待機および緊急手術の症例における死亡率は,それぞれ10%と45%であった.さらに,脊髄虚血も11~15%の範囲で報告されている645). b. 胸腹部大動脈瘤の外科手術

表16 非破裂性胸腹部大動脈瘤の外科手術の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

術前に心臓,肺,腎機能を評価して外科的リスクを推定し,術前の状態を改善するための治療を開始する646–648). I C外科的リスクが低~中等度で,瘤径≧ 60 mm,または急速な動脈瘤拡大(≧ 5 mm / 半年),または瘤関連症状を伴う動脈硬化性胸腹部大動脈瘤の症例では,外科手術を考慮する635). IIa C広範囲胸腹部大動脈瘤(Crawford I 型,II型,III 型)で,とくに長時間の大動脈遮断時間を必要とする場合,虚血による合併症を減らすため,下半身および腹部臓器を灌流する体外循環を考慮する649, 650). IIa C広範囲胸腹部大動脈瘤Crawford I 型,II型,III 型)では,虚血性脊髄障害のリスクを減らすため,脳脊髄液ドレナージを考慮する651–653). IIa B術中の脊髄保護のため,平均血圧と大動脈遠位側の圧の最適化,中等度低体温,電気生理学的脊髄機能モニタリング,および肋間動脈の再建を考慮する654). IIa Cハイボリュームセンターへの集中化を考慮してもよい655, 656). IIb C i. Crawford分類

CrawfordはTAAAの分類を報告し,現在ではこれが一般に受け入れられている657).これはTAAAの手術において連続して人工血管置換される範囲による分類で,報告時はI 型からIV型までの4種類であった(P. 15,図5)

658).

I 型:胸部下行大動脈と腎臓上部の腹部大動脈の大部分または全部を置換することが含まれる.すなわち,典型的には左鎖骨下動脈のすぐ遠位から腎動脈上部にまで及ぶ.

II型:胸部下行大動脈,および腹部大動脈の腎臓上と腎臓下セグメントの大部分または全部を置換することを含む.これらは一般的に,左鎖骨下動脈のすぐ遠位から始まり,大動脈分岐部まで広がる.

III型:胸部下行大動脈の遠位半分(すなわち,第6肋骨の下)とさまざまな程度の腹部大動脈を置換することを含む.ほとんどの場合,下行中部の胸部大動脈から始まり,大動脈分岐部まで広がっているが,一部は腎臓上大動脈内で終わる.

IV型:横隔膜tear付近で始まり,しばしば腹部大動脈全体を含む.

Crawford分類の修正がSafiらによって提案された659) (図55).追加されたV型は,胸部下行大動脈の遠位半分