GL検索 v0.1.0
画像は 64 ページを描画したものです
page 64

p.64 抽出テキスト

近年,Bentall法とVSRRのより精度の高い比較検討が行われている.Marfan症候群におけるメタ解析では, VSRR群で血栓塞栓症,出血,感染性心内膜炎の発症率が低く,より良好な生存率が報告されている572).また, propensity score matching比較では,機械弁Bentall法がゴールドスタンダードであるが,抗凝固療法を回避するためには生体弁Bentall法とVSRRの有用性が報告されている573).Davidらによる機械弁Bentall法,生体弁Bentall法, VSRRの比較検討では,VSRRはBentall法に比べ生存率,弁関連イベント回避率が有意に高く,VSRR後の大動脈弁再手術率は生体弁Bentall法に比べて有意に低く,機械弁Bentall法と比べても差を認めなかった574).さらに,SF-36を用いた術後QOLを比較した検討では,精神的,肉体的評価,雑音の点などからVSRRでより良好なQOLが得られていた575).以上,大動脈基部置換術としてBentall法が標準術式であることに変わりはないが,基部拡大を伴う若年患者に対する熟練外科医によるVSRRはクラスI,エビデンスレベルCで推奨される576).

1.2.2 弓部大動脈瘤

a. 外科手術表13 非破裂性弓部大動脈瘤の外科手術の推奨とエビデンスレベル

推奨クラスエビデンス

レベル

脳卒中と高次機能障害の防止対策を行う577–585). I B最大径≧55 mm には外科手術を考慮する535). IIa C弓部大動脈全域に及ぶ大動脈瘤,慢性解離性弓部大動脈瘤,近位下行大動脈を含む遠位弓部大動脈瘤に対して,全弓部大動脈置換術を考慮し,適宜elephant trunk(ET)法の併用を考慮する586–589). IIa B有意狭窄の冠動脈病変を有する症例に対しては冠動脈バイパスグラフト術(CABG)の同時施行を考慮する95). IIa C脳障害を最小限にするため,低体温循環停止下の選択的順行性脳灌流法(ASCP/ SCP)または逆行性脳灌流法(RCP)の併用を考慮する577–585). IIa B瘤径55 mm以上535),痛みなどの症状があるもの,周辺臓器の圧排症状を有するもの(嚥下障害,嗄声など)などが外科手術の適応となる.また,瘤径が55 mm未満であっても,隣接する上行大動脈や下行大動脈に手術を行う場合96)や,嚢状瘤の場合には外科手術の適応となる.弓部大動脈置換術は,手術手技や脳保護法の発展,それに伴う治療戦略の標準化95)によって治療成績は良好となり590),

弓部大動脈瘤に対する標準的治療法として確立している.有意な冠動脈病変を有する症例に対しては冠動脈バイパス術(CABG)を同時に施行する95).

弓部・遠位弓部大動脈瘤の手術は,体外循環の確立が容易,確実な脳と心臓の保護,同時心臓手術が可能,肺に対する圧迫操作の回避,などの利点により,胸骨正中切開法で行われることが大部分であり,末梢側へ進展した遠位弓部大動脈瘤の場合など一部の症例において左開胸法が用いられる591).広範囲置換術を要する場合には,胸骨正中切開+左開胸,胸骨正中+横切開+左開胸(ドアオープン),両側開胸+胸骨横切開などのアプローチ法を用いれば,一期的に広範囲置換術を行うことは可能である.しかし,左開胸を伴うこれらの術式は侵襲性が高いため,1回目の手術として胸骨正中切開でアプローチ可能な近位大動脈置換術にとどめ,末梢側に遺残する瘤内に人工血管を内挿しておくET法586–589)を行い,2回目の手術としてETを利用して下行置換術あるいはTEVARを行うことで治療リスクを軽減する,段階的手術を選択することが多い.

近年,循環停止中に人工血管のETの代わりにステントグラフトを末梢大動脈に挿入するオープンステントグラフト(frozen elephant trunk,FET)法592)も普及している. FET法では,大動脈瘤末梢の吻合をステントグラフトで代用できることから,広範囲弓部大動脈瘤を左開胸なしで一期的に治療できる,末梢吻合部が従来よりも浅い位置で吻合できる,などのメリットがあり,有用な術式である.一方,SCIの合併率が高いことが指摘されている593).第9胸椎レベル以遠までの深い挿入や周術期の低血圧などがSCIの危険因子であり594),これらに対する予防策を講じることが重要である.

弓部大動脈手術において,脳卒中と高次機能障害の予防対策はきわめて重要であり,脳障害を最小限度にすることで治療成績の向上が図られてきた577–585).弓部再建中の補助手段は,低体温循環停止法595)を基本に,順行性脳灌流法(SCP) 596, 597)や逆行性脳灌流法(RCP) 598, 599)が追加される.

大動脈再建の範囲により,hemiarch置換術,弓部分枝を一部置換する部分弓部置換術,弓部分枝をすべて置換する全弓部置換術に分けられる.hemiarch置換術では循環停止時間が限られるため,低体温循環停止法ないしはRCPを中心とした(SCPを用いる方法もある)脳保護下に末梢側から吻合する.近位弓部大動脈を含む上行大動脈瘤に対しては,腕頭動脈のみを置換する部分弓部置換術が有用である.全弓部置換術では良好な視野で確実な末梢吻合を行うため,ステップワイズ法600)などの工夫もなされ