p.60 抽出テキスト
1 胸部大動脈瘤 1.1 内科治療と侵襲的治療の適応 表11 胸部大動脈瘤の内科治療の推奨とエビデンスレベル 推奨クラスエビデンス レベル 血圧値130/80 mmHg 未満を目標として血圧管理を行う10). I C 禁煙を指導する516). I C画像検査(CT またはMRI)を用いたサーベイランスを考慮する(瘤径の拡大がない場合は1 年に1 回,瘤径の拡大がある場合は3~6ヵ月に1 回)95, 516). IIa C 1.1.1 疫学,内科治療の位置づけ TAAの頻度はスウェーデンから,剖検10万人あたり男性489人,女性437人と報告されている517, 518).多くの場合は無症状であり,健診や他の疾患の精査中に偶然発見される.発見された時点で,一般的に侵襲的治療が選択されるため,内科治療に関する報告は少なく,手術困難または手術拒否例の自然歴,破裂例の後ろ向き調査に関するものがほとんどである.内科治療の目的は大動脈壁へのずり応力,衝撃力を最小化し,さらなる瘤増大を抑制することにある.また, TAAの手術例・非手術例にかかわらず,高血圧症,脂質異常症(特に高コレステロール血症),糖尿病,高尿酸血症,肥満ならびに喫煙などの動脈硬化性危険因子を有していることが多い.したがって,生命予後の改善を図るために,これらの危険因子について十分に患者に指導し,禁煙を含めた生活習慣の改善がきわめて重要である95, 516, 519, 520). 1.1.2 血圧コントロール 最も重要で,減圧により大動脈壁へのストレスを抑制しうる.TAAでの降圧目標は,収縮期血圧105~120 mmHgが望ましいとされるが10),低血圧になるリスクを考慮すると現実的には130/80 mmHg未満が妥当と考えられる.β遮断薬による降圧療法が第一選択であるが10, 95, 521),最大投与量のβ 遮断薬を用いても降圧が不十分である場合,他の降圧薬を適宜追加投与し,目標の血圧値まで降圧を図る.ただし,多くの推奨はMarfan症候群のTAA非手術例を対象とした臨床研究に基づいており,動脈硬化性TAAなど非Marfan症候群患者に適用しうるかどうかについては明らかにされていない. a. β遮断薬 陰性変力作用により左室収縮とずり応力を抑制し,大動脈壁にかかる衝撃力を減少させる効果があり522),β 遮断薬が第一選択薬である.Marfan症候群のTAA非手術例を対象にβ 遮断薬(フロプラノロール)を用いたRCTで,同薬で瘤の拡大速度が73%抑制され,大動脈イベントと死亡率を有意に抑制したと報告されている277).Marfan症候群以外のTAA患者にも同様の結果が得られるかどうかは不明であるが,投与は妥当と考えられる. b. ACE阻害薬,ARB 動物実験では動脈瘤の形成におけるレニン・アンジオテンシン経路の役割が明らかにされている523–525).ACE阻害薬は,炎症メディエーターを修飾し,血管平滑筋のアポトーシスを減少させることで瘤拡大抑制効果をもたらす可能性がある526).ARBはMarfan症候群の動脈瘤患者において,TGF-β を制御して動脈瘤拡大を抑制する可能性がある527, 528).Marfan症候群と大動脈基部拡大を有する若年患者の非ランダム化試験では,ARBは大動脈径拡大率を有意に低下させた527).ARBとACE阻害薬の比較に関しては,マウスモデルにおいてARBが大動脈径拡大抑制効果に優れていた. c. スタチン AAAを対象とした研究が大半であるが,スタチンはマトリックスメタロプロテイナーゼやプラスミノゲンアク 第5章 大動脈瘤の治療