p.53 抽出テキスト
関が確認されている303).糖尿病を合併したAAAは非合併例と比較して瘤拡大は緩徐であり,糖尿病は瘤の拡大,破裂および生命予後に対して保護的に働いている.また,ステントグラフト内挿術(EVAR)後の瘤拡大と再治療についても,糖尿病は保護的である.TAAでもAAAと同様の傾向が認められ,メタ解析で糖尿病は上行・胸腹部・下行大動脈瘤の発症率に関して負の相関がみられる.一方,AAAに対する外科手術(人工血管置換術)後の心筋梗塞,感染,膵炎などの合併症や,EVAR後の手技合併症は,糖尿病が合併するとその発生率が高くなると報告されている303). 大動脈疾患に併存する糖尿病の治療目標は設定されていないが,「糖尿病治療ガイド2018-2019」では,年齢,罹患期間,臓器障害,低血糖のリスク,サポート体制,痴呆の重症度などを考慮し,患者の状態に応じた血糖コントロール目標の設定が必要とされている304). 1.6.4 喫煙 TAA,AAAのいずれにおいても喫煙は瘤拡大と破裂の最も重要な危険因子である305–311).喫煙量に依存して大動脈瘤の発生率が上昇することも明らかにされている307).したがって,小径大動脈瘤においても瘤拡大の抑制の観点から,禁煙指導には意義がある311, 312).特に男性では喫煙とAAA発症の関連がきわめて強く,65~75歳の男性のAAA有病率は,喫煙歴のある場合に6~7%であるのに対して,喫煙歴がない場合は2%である.一方,同じ年代の女性では,非喫煙者の有病率は0.6%未満であるが,喫煙歴があると0.8%になり,活動性喫煙では2%に上昇する.そのため,喫煙歴のある65歳以上の男性では,エコー検査やCT検査でAAAのスクリーニングを行うことが推奨される313).また,AAAに対する外科手術では,術前に禁煙を8週間以上実施すると,活動性喫煙患者と比べて周術期の肺合併症が少なくなる314).SVSガイドラインでは最低でも術前2週間の禁煙を推奨している315). 1.6.5 心不全 慢性大動脈解離やTAA,AAAにおける心不全に関するまとまった疫学はない.しかしながら,AAA遠隔期死亡の主要因は心疾患であり316),侵襲的治療(外科手術およびEVAR)の周術期合併症の大半は心不全である317, 318).術前の慢性心不全は術後の肺合併症,腎合併症の危険因子であり,慢性心不全の既往は術後の心合併症の危険因子である319, 320).したがって,不安定な心疾患(不安定狭心症,重症弁膜症,致死性不整脈,慢性心不全)が術前に診断されている場合は,大動脈疾患の侵襲的治療に先んじて,心臓専門医による心エコー検査での左室機能障害や弁膜症の評価,負荷試験による心筋虚血の評価が必要となり, 病態に応じて薬物治療を含めた内科的管理を行う.しかしながら,術前に心疾患と診断されてない場合でも,待機的侵襲的治療に際してはスクリーニングを行うべきで,スクリーニング法として日常活動度評価と安静時12誘導心電図が推奨される315, 321).原因不明の呼吸困難や増悪する呼吸困難がある場合は,経胸壁エコーによる精査を行うべきである315).AAAの術前では,日常活動度が4 METs未満で,脳血管障害,糖尿病,慢性腎不全のような危険因子を有する患者は,心臓専門医が行う非侵襲的検査による心疾患の精査の適応となる315, 321). 大動脈疾患の手術適応がある患者で,NYHA III度(心不全症状のため行動が制限される)あるいはIV度(安静時にも症状を伴う)の慢性心不全を合併する場合は,薬物治療(β 遮断薬,降圧薬,利尿薬)によって厳格に心不全を管理することが求められ,侵襲的治療は延期する321–324).個々の症例ごとにリスクとベネフィットが専門家により評価されるべきである.また,大動脈弁狭窄症はAAAの侵襲的治療において周術期リスクを最も高める心疾患であり,重度弁狭窄(平均圧較差40 mmHg以上,弁口面積1 cm 2未満,大動脈弁最大血流速度4.0 m/s以上)を伴う場合は大動脈瘤手術に先んじて大動脈弁狭窄症への侵襲的治療を優先する322, 323, 325, 326). 1.6.6 冠動脈疾患 心臓合併症は非心臓手術後の周術期死亡原因の40%以上に関連があると推定されており327),心疾患のリスク評価はきわめて重要である328).術前に左室機能障害や心臓弁の異常の検出,負荷試験による心筋虚血の非侵襲的評価を行うべきであるが,ルーチンのカテーテル冠動脈造影法は推奨されない323).その根拠として,2つのRCTによれば,左冠動脈主幹部病変あるいは三枝病変を有する患者,またはLVEFが35%未満の患者であっても,冠動脈疾患が不安定でなければ,大動脈手術前の予防的冠動脈血行再建の有益性は示されていない326).欧米のガイドラインでは予防的冠動脈血行再建の適応はきわめて限定的であるが323, 326, 329),本邦では大動脈疾患の特殊性や手術侵襲度を考慮して,積極的に施行されることも多くなってきている. 1.6.7 頚動脈疾患 大動脈瘤患者において,頚動脈狭窄症は大動脈瘤と共通の危険因子を有するため,その有病率は高い.SMART試験では,AAA患者の8.8%が少なくとも70%以上の無症候性頚動脈狭窄を有していた330).未治療の有意な頚動脈狭窄症はAAA治療後の長期予後に悪影響を及ぼすことが