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p.52 抽出テキスト

PQ 5

1.6.2 脂質異常症

一般的に日本人の動脈硬化性疾患の発症と死亡はLDL-C値により予測しうる291).また,LDL-C値と脳梗塞は正の相関,出血性脳卒中は負の相関が示されているが292),日本人において十分なエビデンスはない.2018年AHA/ACC動脈硬化ガイドラインでは,大動脈瘤の合併は粥状硬化性心血管疾患(atherosclerotic cardiovascular disease,ASCVD)に該当するが,超高リスク状態には該当しない.大動脈瘤患者の脂質管理目標は,75歳を境にして異なる.75歳を超える患者では,中強度スタチンでLDL-C値を平均30~49%低下させるか,高強度スタチンで平均50%以上低下させるのが妥当とされている(クラスIIa).一方,75歳以下の患者では,高強度スタチンでLDL-C値を50%以上低下させることを目標とし(クラスI),最大耐容量のスタチンでもLDL-C値が70 mg/dL以上であればエゼチミブの追加が推奨される(クラスIIb) 293).

本邦における「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年度版」294)では大動脈疾患における脂質管理目標は設定されていないが,冠動脈疾患では多くのエビデンスがある.大動脈疾患では冠動脈疾患の合併率が高く,同ガイドラインを参考とするのが良い.冠動脈疾患の既往がある場合(二次予防)は,家族性高コレステロール血症や急性冠症候群,糖尿病で他の高リスク病態を合併していれば,より厳格な管理が必要な病態と同様に,70 mg/dL未満ときわめて厳格な目標値設定が推奨されている.

以上より,大動脈疾患に加え,より厳格な管理が必要な病態である家族性高コレステロール血症,急性冠症候群の既往,糖尿病のうち一つでも合併していれば,LDL-C値を70 mg/dL未満,大動脈瘤と冠動脈疾患の合併であれば100 mg/dL未満,大動脈瘤のみであれば120 mg/dL未満を目標とする294).

大動脈疾患症例の脂質管理目標値は推奨大動脈疾患の症例にはスタチンの投与を検討する.LDLコレステロールの目標値は併存疾患に依存する.

本邦において「動脈硬化性疾患予防ガイドライン2017年版」294)が脂質管理目標を提言しているが,大動脈疾患に特化した明確な脂質管理目標は提示されていない.一方,冠動脈疾患(CAD),末梢動脈疾患(PAD)などの粥腫性動脈疾患では,発症・増悪に脂質プラークの関与が指摘され, LDL-C値の管理によりプラークの退縮,安定化が報告されていることから,明確なLDL-C目標値が設定されている.しかしながら,大動脈瘤や大動脈解離の発生には脂質

プラークの直接的関与が証明されておらず,CADやPADなどと同様の粥状動脈硬化症と扱うべきかは不明である.大動脈疾患は,2018年のAHA/ACCの二次予防ガイドライン295)において,粥状動脈硬化症に該当するものの,大動脈瘤・大動脈解離の拡大や破裂に対する脂質異常そのものの直接的関与を示すエビデンスはない.あくまでCADやPADとの交絡因子であると捉えられる.

スタチンの投与に関しては,AAAの拡大抑制296)や大動脈瘤術後の生命予後の改善297, 298)の可能性が示され,スタチンによる血管壁への抗炎症効果などにより,予後が改善される可能性が指摘されている.また,血行再建を要するCADを合併した大動脈瘤・大動脈解離症例に対して,スタチン投与は生命予後を改善する可能性が示されている299).一方,遺伝性大動脈疾患に対するスタチンの有効性は不明である.動物実験では,スタチン投与によりMarfan症候群の大動脈径の拡大を抑制する可能性が示されているが300, 301),実臨床でのエビデンスはない.

スタチン以外の薬物(エゼチミブ,フィブラート系)治療と大動脈疾患およびその予後との関連を示す,大規模な観察研究やRCTは存在しないが,スタチンとエゼチミブを併用することでAAAの炎症マーカーが低下するとの報告がある302).スタチン以外の脂質低下療法についても,動脈硬化性疾患に対する脂質異常症の管理のエビデンスに従い,LDL-C目標値を達成できない場合に,スタチンにエゼチミブの追加投与やPCSK-9阻害薬の投与を考慮する.

以上より,本邦の現状では大動脈疾患に加え,より厳格な脂質管理が必要な家族性高コレステロール血症,急性冠症候群の既往,糖尿病のうち一つでも当てはまれば, LDL-Cの目標値を70 mg/dL未満とし,これらを認めず大動脈疾患+CADのみなら100 mg/dL未満,大動脈瘤のみであれば120 mg/dL未満として,脂質管理を行うことが望ましい.他の併存疾患を考慮して,LDL-Cが目標に達しない場合やスタチン不耐性の場合は,エゼチミブ, PCSK-9阻害薬などの他の脂質低下薬の投与を考慮する.しかしながら,大動脈疾患は遺伝性大動脈疾患を含め病態が多岐にわたるため,厳格な脂質管理を裏づけるエビデンスは十分とはいえず,すべての大動脈疾患に対して脂質管理を強く推奨するものではない.

1.6.3 糖尿病

糖尿病は心血管疾患予後における主要な危険因子であるが,AAA予後については疫学研究,観察研究などで負の相