p.29 抽出テキスト
PQ 2 性大動脈解離が隠れていることがあるが,Dダイマー高値が鑑別診断に有用であったという報告がある100, 101). なお,Dダイマーは測定法により単位がμg/mLとng/mLの2種類があるが,本邦ではμg/mLが多く使用されている.また,検査試薬によりカットオフ値が異なるので,各施設でカットオフ値の確認が必要である. 急性大動脈解離において,繰り返す腹痛に加えてCPKや乳酸,LDHの上昇は腹腔動脈や腸間膜動脈のmalperfusionを疑う根拠となる.また,約1/3の症例で発熱を伴うことが知られているが,発熱が診断の遅れにつながる危険因子となる102).さらに,発熱を呈した場合は細菌感染との鑑別が必要となるが,細菌感染のない場合はプロカルシトニンの上昇がみられないことが報告されている103). 急性大動脈解離ではDICを発症することはまれではない104).破裂による大量出血や偽腔内での血栓形成によることが多いが,DICに至らないまでも,急性期に偽腔への血流によって凝固の活性化や二次的な線溶系の亢進が起こり,凝固因子やフィブリノゲン,血小板などが減少し,術後経過の悪化や合併症の発生につながる105, 106).また慢性期の偽腔開存型大動脈解離においても大動脈瘤と同様に線溶亢進型DICが起こることがある107). 大動脈疾患に合併した播種性血管内凝固症候群(DIC)の治療法は推奨基礎疾患である大動脈疾患に対して侵襲的治療を検討する.線溶亢進型DICに対しては,DICの専門医に相談のうえ,抗凝固療法と抗線溶薬の併用が望ましい. 大動脈瘤にDICを合併することは古くから報告されており108),瘤径の大きい動脈瘤ほど凝固異常をきたしやすく,その合併率は4%程度とされている81, 83).実際,大動脈瘤や慢性期の偽腔開存型大動脈解離では,抜歯や外傷などを契機に出血制御が困難となる慢性DICに遭遇することがあるが,現状では明確な診断・治療指針がなく,対応に苦慮することが多い. DICは線溶抑制型,線溶均衡型,線溶亢進型に分類される.線溶抑制型DICをきたす代表的な疾患としては敗血症があるが,線溶亢進型DICをきたす疾患としては一部の悪性腫瘍(急性前骨髄球性白血病,前立腺癌)や大動脈瘤がある85).大動脈瘤や慢性大動脈解離では瘤内部や偽腔内における壁在血栓の形成とその溶解,血液の乱流が線溶系亢進をきたすと考えられているが,詳細は解明されていない. 大動脈瘤に伴う線溶亢進型DICでは,血小板減少は軽度で,プロトロンビン時間(PT)や活性化部分トロンボプ ラスチン時間(APTT)も正常のことがあり,多くの症例で見逃されている可能性がある.すでに大動脈瘤と診断されている患者でも,これらの検査項目は正常範囲で出血傾向を示さないため,慢性DICと認識されていない状態で,抜歯や外傷などを契機に出血傾向が顕性化する症例がある.また,大動脈瘤と診断されていない患者では,特発性血小板減少性紫斑病(ITP)など誤った診断をされていることもあるため,原因不明の血小板減少を見た際は大動脈瘤も鑑別の対象とする必要がある. 線溶亢進型DICの診断では,上述のとおり血小板減少は軽度で,PTやAPTTが正常範囲であっても,フィブリン分解産物(FDP)やDダイマーなどの他の凝固マーカーは異常値を呈している.プラスミン– α 2プラスミンインヒビター(PI)複合体(PIC)の著増,α 2PIとプラスミノゲンの低下,FDPとDダイマーの上昇がみられる.しかし,トロンビン–アンチトロンビン複合体(TAT)やPIC,α 2PIなどは,すぐに院内で結果が得られないことも多く,実臨床ではFDP/Dダイマー比の上昇が有用である86).これは局所での線溶系亢進によりフィブリノゲン分解(一次線溶)が主体となるため,FDPの産生に比してDダイマーがあまり生成されないためである. DIC治療の原則は,基礎疾患の治療に加えて補充療法と抗凝固療法であるが,大動脈瘤や慢性期大動脈解離に合併する線溶亢進型DICの治療は現状で確立したものはない.基礎疾患の治療として侵襲的治療を検討し,また,出血傾向を呈しフィブリノゲンが低下している場合は新鮮凍結血漿の補充を考慮する.抗凝固療法として未分化ヘパリンやヘパリン類(低分子ヘパリン,フォンダパリヌクス,ダナパロイド),さらにナファモスタット,遺伝子組換えトロンボモジュリンといった薬物が用いられるが,大動脈瘤による慢性DICに対する投与量など確立されたものはない.一方で,線溶活性化がきわめて強い場合には抗凝固療法が出血を助長するという懸念がある85, 109). また,線溶亢進型DICではトラネキサム酸などの抗線溶薬が用いられることがある.しかし,DICに対する抗線溶療法は,線溶活性化により微小血栓を溶解しようとする生体防御反応を抑制するため,むしろ血栓形成を助長することになり,単独で用いると臓器障害や全身血栓症などの重大な合併症をきたし,死亡例の報告もある110).このため,抗凝固療法を併用しながら抗線溶薬を使用することが推奨されている85).最近では抗凝固療法として直接経口抗凝固薬(direct oral anticoagulant,DOAC)を用いた報告もあり111),今後の知見の集積が期待される.