GL検索 v0.1.0
画像は 27 ページを描画したものです
page 27

p.27 抽出テキスト

こりうる.

1.2.2 解離による続発症

a. 破裂

上行大動脈の解離が心嚢内で破裂した場合,心タンポナーデを生じる.心タンポナーデは急性期の死因として最も多く重篤であり,剖検例報告では死因の70%が心膜腔への穿破とされる70).特に,心膜が覆っている上行大動脈に解離が波及した場合には,心タンポナーデを発症する可能性がある.心タンポナーデは解離した大動脈の心嚢内穿破に伴う血性滲出液貯留により生じるが,その量と貯留速度によって心タンポナーデ発症までの時間的経過は異なる.また,胸部・腹部大動脈解離から破裂が生じた場合,胸腔・腹腔内穿破による出血も認める.大動脈解離剖検例からは,死因となる大量出血が認められることが最も多い部位は左胸腔で,次に縦隔,後腹膜腔である71). b. 胸部・腹部大動脈分枝のmalperfusion

解離により大動脈分枝に狭窄や閉塞が発生した場合には,その分枝から血液供給を受けている臓器のmalperfusion(灌流障害)が生じ,さまざまな症状を呈する.malperfusionは,1dynamic obstruction(entryから偽腔内に入った血液がその抜け場所がなく,偽腔内に血液が溜まって真腔を圧迫し,分枝灌流を阻害する),2static obstruction(解離した内膜が分枝内に入り込み,分枝を閉塞して分枝灌流を阻害する),および1+2の併発型の3つに分類される.各malperfusionに対する治療方法の詳細は,第6章の「3. Stanford B型大動脈解離」の治療の項(P. 112~)を参照のこと. i. 冠動脈

冠動脈への解離の波及は,剖検例の報告から大動脈解離全体の3~7%とされている25, 72).ショック例を除く心筋虚血はA型解離の3~9%であり72, 73),胸痛,房室ブロック,呼吸困難などの冠動脈疾患にみられる種々の臨床症状を呈する.解離は大動脈基部では右冠尖から無冠尖に沿って進展することが多いため,左冠動脈に比べ,右冠動脈に解離による血流障害が生じやすい. ii. 脳血管

解離が頚動脈や椎骨動脈に及ぶと,脳血管灌流異常や低血圧,遠位部血栓塞栓症,神経圧迫などによりさまざまな神経症状を示す.脳神経症状は意識障害と局所的神経障害に分けられるが,その症状と程度はさまざまである.いずれも弓部分枝の血流異常によって発症するが,意識障害は心筋虚血や大量出血による全身の循環不全によっても生じることがある.脳虚血の合併率は3~7%である.脳梗塞はほとんどの場合,腕頭動脈や左総頚動脈の狭窄や閉塞により生じる.

iii. 脊髄虚血

下肢対麻痺は約4%に発症する71, 74).脊髄上部は主に椎骨動脈の分枝血流によって栄養されており,この部が大動脈解離によって傷害される頻度は少ない.一方,脊髄下部への主な血流は大動脈からの直接分枝である肋間動脈や腰動脈分枝によって保持されている.特に,胸椎下部から腰椎上部において前脊髄動脈に結合する分枝(Adamkiewicz動脈)は通常他の脊髄枝に比して太く,大根動脈(arteria radicularis magna)と呼ばれる.下行大動脈の解離によって肋間動脈や腰動脈が狭窄したり真腔から離断されたり,あるいは偽腔が血栓閉塞したりすると,Adamkiewicz動脈の血流障害が生じ,脊髄上部と下部の分水嶺域である胸髄中部に虚血が生じる.脊髄横断症状をきたすこともあるが,脊髄前方すなわち運動神経領域が傷害されやすく,対麻痺をきたす. iv. 腸管虚血

腸管虚血は腹腔動脈や上腸間膜動脈の狭窄や閉塞により併発し,その合併率は2~7%である70, 73, 75, 76).しかしながらその病態把握は難しく,手術後に急激に出現する場合もある.A型解離よりB型解離に合併率が高いという報告もある72).腸管虚血を併発した大動脈解離は予後不良であり77),腹痛,下血などの症状や血中乳酸値,LDH上昇などに留意して,その診断に努めるべきである. v. 腎虚血

malperfusionによる腎血流障害は約7%に発症し71),乏尿や血尿を呈する.腎動脈狭窄により高血圧を合併する可能性もある.左右差については左腎の方が影響を受けやすいとする報告もあれば,左右差がないとするものもあり,一定の見解はない. vi. 四肢虚血

腸骨動脈の狭窄・閉塞,ときに大動脈狭窄や血栓閉塞による下肢脈拍消失や下肢虚血症状は7~18%に合併する73, 75).広範囲解離症例に続発することが多く,多臓器虚血の併発も多い.下肢虚血に対しては侵襲的な治療介入を検討する必要がある.高度虚血の場合には,虚血再灌流障害である筋腎代謝症候群(MNMS)を合併することがある.一方,上肢虚血は腕頭動脈や鎖骨下動脈の狭窄・閉塞により起こり,A型解離の2~15%にみられる75, 76).臨床症状の有無にかかわらず,上肢血圧の左右差(>20 mmHg)まで含めると,約半数近くにみられる68). c. その他の病態i. 大動脈弁閉鎖不全

大動脈弁閉鎖不全は上行大動脈に解離が存在する場合に認められ,解離症例の約半数で大動脈弁に対する手術