p.165 抽出テキスト
階的アプローチの場合は右開胸または右胸内視鏡下に食道を切除し,感染巣の十分な郭清と洗浄を行う.いずれの場合も,頚部に食道瘻,腹部上部に胃瘻の造設を行う. d. 大動脈再建術 二次性AEFでは,人工血管やSGの全切除を行うことが原則である.左開胸で行うが,そのアプローチは部位によって異なる.弓部大動脈に及ぶ場合は前側方開胸や後側方開胸から胸骨を横切して視野を展開する方法を用い,下部下行大動脈の場合は胸腹部大動脈手術に準じたStoney切開や前側方直線的切開などによって行う.いずれにしても,大腿動静脈を露出して体外循環下に手術が行われる.弓部大動脈に及ぶ場合は,低体温(25~28°C)と順行性脳分離体外循環を併用して大動脈を再建する.遠位弓部大動脈以遠で大動脈を遮断できる場合は,上半身は自己心拍動下で,下半身は部分体外循環で大動脈を再建する.まず感染した大動脈と感染組織を除去する.食道抜去を同時に行う場合は大動脈を除去後,食道を抜去し,両断端は一時的に閉鎖する.その後,十分な洗浄を行う. 以前は,感染巣内に人工血管を移植することを避けるために,大動脈断端の閉鎖と上行大動脈–腹部大動脈バイパスによる下半身の血行再建が行われてきたが(非解剖学的バイパス術),最近はin situへの人工血管置換術を第一選択とすることが多い.非解剖学的バイパス術の遠隔期に起こることがある大動脈断端の仮性瘤や出血,バイパス閉塞などの合併症を考えると1793),in situ人工血管置換術が標準術式になっていくと思われる. e. グラフトの選択 Vogtらは感染性大動脈瘤においてホモグラフト(凍結保存同種グラフト)が感染制御に関してきわめて有効であったとしている1794).しかし,本邦では組織バンクでの保存数は少なく入手困難であり,グラフト径が小さいことが多い.Lesècheらはホモグラフト移植後の平均3年の追跡で閉塞や瘤化は17%と報告しており1008),遠隔成績にはいまだ問題がある128, 1795).このため,本邦では人工血管の使用が多く,リファンピシン浸漬グラフトを術中に作製して使用した報告が多い1796, 1797).そのほか,ePTFE(expanded polytetrafluoroethylene)人工血管,ウシ心膜で作製した人工血管503),銀コーティング人工血管1798)などがあるが,有効性は不明である. f. 大網充填 大網は血流とリンパに富む組織で,感染制御に有効と考えられており,開心術後の縦隔炎の治療にもしばしば用いられている1012).AEF手術においてはin situに移植した人工血管の周囲を大網で被覆して感染の波及を予防する.右左どちらかの胃大網動脈を血管茎とした有茎大網は,弓部 8.1.3 診断 不明熱や胸痛や初期の少量吐血などの初期症状の段階から診断に至るまで時間を要することも多い.血液検査での著明な炎症所見が発見の契機となることがある.画像診断では,CT検査が有用で,大動脈と食道の周囲のガス像を伴った液体貯留は炎症による浮腫あるいは膿瘍形成を示すものであり,感染を強く疑わせる所見である.また,食道内視鏡検査で食道壁の小さな潰瘍像や異物突出によりAEFとほぼ確定できるが1791),患者の状態によっては必ずしも必要はない.そのほかに診断手段として大動脈造影や食道バリウム造影検査もあるが,一般的ではない.また,治療方針を決めるうえで,感染や炎症の及んでいる範囲を知るためにPET/CT検査が有用なことがある. 8.1.4 治療 抗菌薬のみによる保存療法では救命は100%不可能で,侵襲的治療を要する1778, 1780).TEVARのみで救命できたとの報告は散見するが,感染巣へのステントグラフト留置は長期予後に大きな問題がある.Kanらは感染性大動脈瘤に対するTEVARとEVARの1年生存率は,持続性感染群が感染治癒群より劣ることを報告している1783).一般的には, TEVARのみ,食道ステントのみの予後は不良で126, 127, 1778),長期生存を得るためには食道抜去,感染組織の清拭と十分な洗浄,感染した大動脈の除去と大動脈の再建,再建部位の大網充填のすべてが必要である126, 127).これらの治療を一期的に行う場合と127),患者の状態や侵襲の大きさを考慮して段階的に行う場合がある128, 129).術後感染をコントロールできた段階で,最後に食道再建術を行う. a. 抗菌薬治療 培養検査の結果に応じて強力な抗菌薬投与を開始する.複数の菌が同定された場合や菌が同定されない場合は,広範囲に効く抗菌薬の投与で初期対応する.しかしながら,縦隔に感染巣があるので,あくまで手術までの感染制御が目的である. b. 大量出血制御のためのTEVAR AEFからの大量出血時や大量出血が危惧される場合は,まず緊急TEVARによって大量出血を防ぐこと(bridging TEVAR)が不可欠である1779).すでに大量出血してショック状態の場合,TEVARまでの出血コントロール目的でSB (Sengstaken-Blakenmore)チューブの使用は有用である1792). c. 食道抜去術 食道抜去と大動脈再建術を同時に行う場合は,左開胸アプローチで大動脈を切除した後に食道を抜去できる.段