p.147 抽出テキスト
造影後の27%にコレステリン結晶塞栓症を認めた1653)と報告されている.心臓手術921症例の検討では,動脈硬化性病変の有無によって,脳梗塞発症率は8.7%と1.8%と,病変を有する群で有意に高かった1654)が,いずれも剖検での発症率よりは低い. 心臓カテーテル検査において橈骨動脈アプローチでも大腿動脈アプローチでも,脳梗塞の発症率は0.1%,0.5%と低く,有意差は認めないとメタ解析で報告されており1655),心臓カテーテル検査自体は一般的に脳梗塞発症のリスクは高くない.現在,経カテーテル的大動脈弁留置術(TAVI)は動脈硬化性病変を主として多くの合併症を有する高齢者に行われるようになっているが,メタ解析によって心尖アプローチでは(大腿または腋窩)動脈アプローチよりも脳梗塞を減少させることが報告されており1656),動脈硬化病変の有無,部位,程度によってそのリスクは変化する. 腹部大動脈以下の末梢動脈疾患に対する血管内治療の際,大動脈腸骨動脈領域ステント留置において1.3~3.6%にコレステリン結晶塞栓症を認めたとの報告1657–1659)がある.一方,腎動脈以下の外科手術においても2.9%に塞栓症を認めたとの報告もあり1660),血管内治療と外科手術で発症率は変わらない.しかしながら,shaggy aortaや潰瘍性プラークを有する症例における血管内治療は高リスクである1648). 3.1.2 治療 抗血栓療法(抗血小板薬,抗凝固薬)は血栓塞栓症のリスク軽減のためには必要であるが,大動脈に起因する血栓塞栓症に関する研究はほとんどなく,その多くが小規模である.大動脈プラークに対するワルファリンの有効性が認められたとする研究1661–1663)とともに,抗血小板薬と比較してワルファリンの有効性は認められないとする報告もある1664, 1665).逆に,抗血栓療法はコレステリン結晶や粥腫の遊離を促進する恐れもある1666, 1667). a. 脂質低下療法(プラーク安定化) スタチンを用いた脂質低下療法は症候性の動脈硬化性疾患の発症リスクを抑える点で有用である1668).粥腫塞栓症による脳梗塞患者においてスタチン内服を推奨するRCTは認めないが,家族性高コレステロール血症症例において経食道エコー検査による評価で,2年間で粥腫進展が19%,粥腫縮小が38%に認められたと報告されている1669).また,6ヵ月間のスタチン内服により,MRI検査で大動脈粥腫体積が15%減少したとの報告1670)や3ヵ月間のスタチン内服によりPET検査でのプラーク炎症が減弱したとの報告もある1671).高度な大動脈プラーク症例を対象とした大規模な後ろ向きの検討では,スタチンのみが脳梗塞 3.1 血栓塞栓性大動脈疾患 大動脈におけるプラークは,動脈硬化巣進展の結果として大動脈内膜・中膜層に蓄積した脂質からなる.二次性の炎症,線維性組織の沈着,次いで形成される血栓と内腔面のびらんはいずれも血栓性(血栓塞栓性)もしくは動脈硬化性(コレステリン結晶)塞栓を引き起こす要因となる1641).血栓塞栓性の塞栓子は通常大きく,一般的には中~大型動脈を閉塞させ,脳梗塞,一過性脳虚血発作,腎梗塞,腸管虚血,末梢動脈血栓塞栓症の原因となる.一方,コレステリン結晶性の塞栓子は小動脈や細動脈を閉塞させ,blue toe症候群や腎不全の原因になりうる. 3.1.1 疫学 大動脈プラーク形成に至る危険因子として,他の血管床の動脈硬化巣と同様に,年齢,性別,高血圧,糖尿病,脂質異常症,運動の少ない生活習慣,喫煙と炎症が挙げられる.Offspring Framingham研究では大動脈プラークは正常血圧者の46%に認められ,女性に多いと報告されている.大きなプラークは高血圧と関連しており,心血管疾患を有する症例に多くみられたとの報告がある1642).大動脈プラークが脳血管のみならず末梢動脈塞栓症に関与していることは,剖検の結果1643),非致死性の脳血管や末梢血管疾患を有する患者の研究1644),さらに経食道エコー検査や術中エコー検査が行われた症例研究からも明らかになっている1645, 1646). 心房細動の症例において,経食道エコーで可動性のあるプラーク,プラークにおける潰瘍形成,4 mm以上の厚さをもつプラークを有する症例では,プラークを認めない症例の4倍の脳梗塞リスクを有すると報告されている1647).また,脳梗塞患者における大動脈プラークについて,厚さ4 mm以上のプラークは脳梗塞再発とすべての血管イベント発生の独立した危険因子であると報告されている1648). 剖検例において動脈硬化性(コレステリン結晶)塞栓症は0.18~2.4%に認められた1649).塞栓イベントは血管造影検査,心臓カテーテル検査や大動脈内バルーンパンピング(IABP),心臓手術の際にも認める.大動脈に何らかの処置を行った症例では12~77%にコレステリン結晶塞栓症を認め1650, 1651),剖検では心臓手術後の22%に1652),大動脈 3 動脈硬化性大動脈疾患